2019年の教育問題:「公から民へ」と「規制緩和」に注意・注目

謹んで初春のお喜びを申し上げます。
文化によって形や時期に違いはあっても、冬至から節分の間の時期に「衰退した太陽の復活」を祈り祝う催しがあるのは世界共通のようです。
新年の最初の木曜日ですので、特に教育の問題に関連して今年の注意・注目点を挙げたいと思います(実際には福祉や医療、労働に関する問題にも共通しているとは思います)。タイトルにある「公から民へ」と「規制緩和」です。

受験生がいるご家庭では、初詣で合格祈願をされたかもしれません。1月19-20日には大学入試センター試験(以下、センター試験)があります。このセンター試験は2020年度に大きく変わることが予定されています。非常に多くの問題をはらんだ変更で、この問題だけで記事が5-6本書けそうなのですが、本日は民間試験の導入について。


今までは大学入試センターが行っていた英語の試験を、民間の英語検定試験に置き換えていくことになっています。しかし民間の英語検定試験は、大学入試のために作られたものではないために、受験生の英語力を適切に評価できないと言われています。また受験生各自がどの試験を選択したかによる不公平もありえます。さらに問題なのは、受験料が高くなり、家庭の経済力や居住地による不公平も予想されることです。都市部に住んでいる富裕な家庭では、試験を何度か受けることも可能ですが、地方の場合は交通費等も含めると相当な負担になります。
2015年3月から2016年3月まで文部科学省の「高大接続システム改革会議(以下、システム会議)」の委員の1人であった南風原朝和さんは、著書の「検証 迷走する英語入試」の中で、システム会議では全く議論がなかったにもかかわらず、システム会議の最終報告のわずか5か月後に突然、「センター試験英語の廃止」と民間の検定試験の活用方針が出されたと述べています(リンク先で詳細を読むこともできます)。
率直に言って、大手の教育産業にとってこれは大きなビジネスチャンスです。毎年毎年、全国の高校生から受験料や受験勉強用の教材費を受け取ることができるわけですから。
そして実はセンター試験の英語だけではなく、他の領域の試験でも民間企業の参入が進む見込みです。

大学入試をめぐる件は、「公から民へ」の動きのひとつと言えます。民間のものだからダメだというつもりはありませんが、現状において民間の英語試験には非常に大きな問題があることがわかっているにも関わらず、それを推し進めることには大きな問題があります。それ以外にも、児童生徒学生の学ぶ権利を侵害していくことが懸念されます。

「規制緩和」は「公から民へ」の流れとセットでもあります。規制が緩和されると、民間の業者が参入しやすくなります。
民間企業は自由な活動を行うことができますが、放っておくと営利を優先して質の悪いサービスが提供されることがあります。悪いものは市場原理で淘汰されると主張する向きもあるようですが、実際にはそうとは限りません。仮に長い目で見れば駆逐されるとしても、教育や医療といった「取り返しのつかない」場所で悪いサービスにさらされる個人の損害を考える必要があります。
そのため、教育に関わる事柄には様々な規制が設けられています。例えば保育所を作るにも、私立学校を作るにも、建物の広さや機能、教職員の人数や資格などに関する規制があり、子ども達を守っています。

しかし、「規制緩和=善」という単純すぎる論調が現在の日本社会にはあります。こちらの話題はその1つでしょう。


学童保育所の規制を「緩和」して、職員1人でも構わないようにするという方針が打ち出されてきました。子ども達の健やかな成長が危機にさらされることは確実です。
現状でもこのようなことが生じているのに。

お正月から心配な話題になりました。けれど「衰退した太陽の復活」のように、今は心配な方向に振れている現状に1人でも多くの人が気づいてくだされば、状況はまた変わるだろうとも思います。先月には高等教育の無償化を求める若い人たちの動きを紹介しましたが、他にも声をあげる人が増えています。

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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。