では、なぜ大統領選挙などするのでしょう?
そうですね。ロシアの大統領選挙は国民のためでなく、「ロシアにも民主主義はありますよ」と世界にアピールするための、対外宣伝にすぎないのだと思います。結果は行う前からわかっていますから、国民は投票場に足を運ぶまでもありません。ただ、それだと投票率が下がって選挙が成り立ちませんから、選挙区ごとにいろんなイベントをやって有権者を集めたり、不正投票を行って投票率の嵩上げを図ったりしたのでしょう。
とすると、ロシアにはプーチン以外の人材はいないのですか?
実は当初、有望視されていた候補者がいることはいました。現在四十二歳の、反政府的な政治活動家アレクセイ・ナヴァーリヌィという人です。彼は現政権の汚職を糾弾し、反プーチンキャンペーンの中心人物として頭角を現してきましたが、根拠のあやふやな横領や詐欺の容疑で逮捕され、執行猶予付きの実刑判決を受けてしまいました。選挙管理委員会はこれを理由に彼の立候補を却下したのです。
これはナヴァーリヌィに限ったことでなく、過去にも類似の事例をいくつも挙げることができます。政権に立ち向かおうとする者は当局に捕まり、犯罪者としての烙印を押され、政治の舞台から退場させられるのです。
それではまともな選挙にならないわけですね。
そうです。今のプーチンには政敵というものが存在しません。政敵になりそうな人物はことごとく犯罪者にされてしまうからです。もうここに真の意味での民主主義はありません。
ロシア国民はこの状況に納得しているのでしょうか?
納得していない人たちも大勢います。大統領就任式を間近にひかえた5月5日、ナヴァーリヌィの支持者たちが主催する政府への抗議デモが多くの都市で行われました。参加者はそれぞれの都市で数百人から数千人に達した模様で、ロシア内務省によれば1500人以上が拘束されたようです。このようなデモの動きを変化への胎動と見る向きもありますが、わたしは賛同できません。ロシアには彼らの力を結集して立ち上がる政治家が育つ土壌がないからです。
プーチンが初めて政権の座についてから18年が経ち、今後さらに6年続きますが、ロシアの民主主義は確実に遠のいています。
※かわらじ先生の国際講座、前回はこちら。