高齢期の暮らしと住まい(26)

ハウジング・プア

「ワーキング・プア」という言葉は一般的になりましたが、「ハウジング・プア」という言葉もあることをご存知でしょうか。私事ですが、2年前に大学の社会福祉学部に編入学し、今年大学院に進学しました。研究テーマは「高齢期の居住福祉」で、学部の卒論も同テーマでした。卒論は、自分の経験に基づき日本の高齢者住宅の問題提起をしていた(つもり)のですが、改めて研究課程で勉強し始めると、浅はかさを痛感し若干恥じ入る気持ちです(苦笑)。従って、もう少し深く掘り下げるため、修士論文は「住宅政策」に言及しようと思っています。日本に住んでいると「住宅は自分の努力で確保するもの」という意識が、当然のように刷り込まれています。安価な公的住宅に住めるのは、所得制限があり低所得でないとだめなケースが多い(これはスティグマとも言われます)。でも、生活の根幹として、必要不可欠な住宅を自己努力だけに押し付けるのは、なんだか腑に落ちない思いが長くありました。

 

住田昌二先生の「現代日本ハウジング史」(ミネルヴァ書房/2015)日本の住宅の歴史が非常に丹念に調査研究されています

日本の住宅政策

「居住福祉」を研究していると、なぜか社会福祉領域でなく、ほとんどが建築学領域で議論されています。私の尊敬する先生も気付くとほぼ工学部建築学の先生ばかり(;’∀’)。バリアフリーや建物の構造ではなく、そこに住む人の人権や制度の必要性に訴求されておられ、できたら弟子入りしたいのですが(笑)、理系を学んだことがないので叶いません。話がそれましたが、影響を受けた先生方のおひとり大阪市立大学名誉教授の住田先生の「現代日本ハウジング史」という壮大な著書があります。日本だけでなく、先進国はどこも第二次大戦後の壊滅的な状態から住宅政策を立て直したのですが、ここが日本と他国の分岐となり、後々に大きく影響しているのがわかります。欧州をはじめ、アメリカや豪州でも「家賃補助」制度が政策に盛り込まれています。内容は各国異なりますが、衣食住と言われるように、人間が文化的に生きていくための最低限必須に「住」を据えているわけですね。

 

スウェーデンの高齢者住宅の一例。80代の男性一人暮らしのお宅を訪問。80㎡程の2LDKでゆったりとした空間。決して富裕層対象ではなく、ごく普通の年金生活者のお宅である

スウェーデンなど欧州の住宅政策

2年半前にスウェーデンの高齢者住宅・政策の調査に行った際の例を取り上げてみます。北欧はデンマーク、フィンランドと合わせ3ヵ国の高齢者住宅や政策の研究に数度訪れましたが、それぞれ似て非なる制度です。スウェーデンで聞いた話では、年代に関わらず、収入に応じて家賃補助がなされます。決して低所得層だけの慈恵的なものではなく、生活規準を等しくするためととれます。高齢者の住まいも、一部の特別な住宅(介護施設/高齢者人口の5~6%)を除いては、すべて住宅とケアは分離されており、高齢者は自由に住宅を選び、収入に応じて家賃補助がなされます。特に面積基準はないらしいですが、必要なのは大きさではなく「機能」というところにも配慮が感じられます。結果的に介護施設でも最低1室25~30㎡は確保されていて、「介護する人」のしやすさに配慮することも「労働環境庁」から指導されています。「住宅」はそこに関わる全ての人の「人権」も考慮されているのですね。

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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。