Covid-19感染拡大をうけての9月入学導入はさすがになくなったようです。
今回と次回の2回に分けて、「休校で子どもの勉強が遅れたことをどうする問題」についてとりあげたいと思います。今回はまず、9月入学に関する専門家の分析等を紹介します。
9月入学そのものにはメリットとデメリットの両方がありますが、これまでに散々検討して「導入コストに見合わない」という結論に至っていました。「いや、それは必要なコストだ。9月入学は導入すべき」というのは1つの見解としてありうるかと思いますが、コロナ禍中にやることではないという点では多くの教育関係者の意見が一致していたのではないかと思います。
「 #9月入学 、今必要ですか?」
教育関係者から「待った」の声が上がっています。https://t.co/Xlrt5fCtgo— ハフポスト日本版 / 会話を生み出す国際メディア (@HuffPostJapan) May 26, 2020
先ほど一次署名提出してきました。文科省提出です。でも内閣官房にしっかりお届けいただけるそう。文科省の寺門総括官とお話しし、9月入学は今じゃなく、まず受験生ファーストの大学入試方針(時期の柔軟化など)、学校行事や部活の保障、学びの保障お願いしてきました。#九月入学本当に今ですか? pic.twitter.com/GVB3ALIgPH
— 末冨 芳 スエトミ カオリ (@QuattroVageenaG) May 29, 2020
日本教育学会も声明を出しています。こちらはそれを紹介した記事ですが、
よーく考えたら問題山積ですね。
議論自体も終了かな?9月入学、負担6.9兆円 教育学会「利点少ない」(共同通信) https://t.co/R4Wpgez954
— サボさん (@kyouiku_mondai) May 22, 2020
お金の問題だけではなく、小学校入学が7歳5カ月の時という高年齢になる子どもたちが出ることなども指摘されています。
日本教育学会のwebサイトはこちらで、
日本教育学会声明 2020年5月11日「「9月入学・始業」の拙速な決定を避け、慎重な社会的論議を求める――拙速な導入はかえって問題を深刻化する――」https://t.co/l2G0XKNnOt
— 本田由紀 (@hahaguma) May 11, 2020
「9月入学・始業制」問題検討特別委員会による提言「9月入学よりも、いま本当に必要な取り組みを―より質の高い教育を目指す改革へ―」の本文はこちらです。
幼児教育関係からも反対の声があがりました。「未就学児を調整弁にするな」という主張は切実なものだと思います。
9月入学移行に反対…全日本私立幼稚園とPTA連合会 https://t.co/pIdJcX8dYp @ed_reseより
— Junko Nishigaki (@JNishigaki) May 30, 2020
また、元東京大学教授で現在はオックスフォード大学教授の苅谷剛彦さんを中心とするグループがまとめた報告書もあります。政治や行政がデータに基づかない結論を出すことに警鐘をならしています。
報告書の解説がこちらにあります。
いま同じ研究グループで活動している岡本さんの解説コメントがついている記事。
「9月入学」の根拠は? 保育所待機児童16倍、学童保育待機児童10倍、教員2.8万人不足(木村正人) – Y!ニュース https://t.co/oqX4irlAiU— 中村高康 (@tnk4210) May 20, 2020
本文はこちらから。
なお、9月入学は東京の小池知事や大阪の吉村知事などが議論をリードして、知事会の積極姿勢が目立ちましたが、教育現場により近いところにいる市長会は反対が多かったとのこと。
市長会、慎重・反対が8割 9月入学、町村会も反対8割:時事ドットコム https://t.co/nazdkElazC @jijicomより
— #9月入学本当に今ですか (@9adm_notnow) May 25, 2020
「Covid-19対応としての9月入学導入」というある意味で暴論が出てきた背景には、休校で子どもたちの学校の授業での学習時間が減ってしまったという事情がありました。「授業時間の減少=勉強が遅れる」という危機感です。
この問題に対応するために、大阪では夏休みを10日間だけに減らし、冬休みも半減させる方針とのことです。
大阪の府立高校『夏休み10日間・冬休み7日間』に短縮方針…文化祭や体育祭は実施 #mbs #ニュース #関西 #MBSニュースhttps://t.co/5u3llOsghk
— MBSニュース (@mbs_news) May 29, 2020
「遅れた勉強を取り戻す=休校分の時間を埋める」と単純な結論を出す前に、子どもたちにとって一番良い対応はなになのかを考えたいと思います。熊本市教育委員会では議論が白熱しているようですね。(tweetをクリックしていくと、引用元のNHKのニュースが読めます)
ちなみに、類推の根拠となる研究は、ハッティ『教育の効果』等を参照。学力保障は、単に授業時間を延ばせばよいわけではない。そもそも一律一斉の場合、子どもたちは半分くらいの時間しか実際には学んでいない。重要なのは、個のペースやレベルに応じ、それを十分にサポートすること。 https://t.co/X3LwQoFFqn
— 苫野一徳 (@ittokutomano) May 28, 2020
この問題は次回にもう少し詳しく取り上げたいと思いますが、本日は大阪教育文化センターの提言「学校再開に向けたいまだかつてない取り組みを」を紹介しておきます。子どもの心に寄り添うこと、学習指導要領に子どもをあわせようとしないこと、学習内容を厳選すること、入試の出題範囲を削減すること、行事を安易に取りやめないことなどが提言されています。
大阪教育文化センター
【提言】学校再開に向けた、いまだかつてないとりくみをhttps://t.co/UkWKgjV1Cl— Shiochanman/塩崎義明 (@y_shiozaki) May 21, 2020
子どもたちが十分に学ぶためには、時間の確保は確かに大事かもしれません。しかし、「時間の確保」は手段であって目的ではありません。そして子どもたちは、入試やテストに出るような勉強だけをして大きくなるのでもありません。現下の状況で「子どもたちの学ぶ権利を補償する」「健やかな発達を保障する」とはどういうことなのか、学校は何ができて、地域社会に何ができるのか、複眼的に考えたいものだと思います。
———–
西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。