新作発表だ。いま、その台本を書いている。苦しい、まさに佳境に入っている。
そして、そのリーディング発表には私自身がほぼ一人芝居の役者となる。台本をもったままのステージだけれど、立ったり動いたり寝転がったり走ったり、ちっとも「読んでる」という状況ではない舞台。役者の力量が問われるのだ。緊張はまだ先だけれど、覚悟はもうしている。
書く時には「役者の自分はこれ喋れるのか？」とは考えない。考えたくなるけれど、書けるのか、という不安が圧倒して、役者への手加減はできない。だから完成してから役者の私は途方に暮れるのだ。不安。憂鬱。どうしてこんな企画、始めてしまったのか。誰かに誘われたのでもなく、自分から二人の友人劇作家を誘ったのだ。後悔先に立たず。くよくよしてたって仕方ないから私は書く。考えないようにして書く。
……つまり、これがいつもの私の作劇術だ。そしてこの「なんにも考える余地がない」状況が、私は好きだ。私をこんなにも集中させてくれる負荷の高い時間を、自分で作れるってことが、自分に対するコントロール能力を確認できて、いい感じ。心理学では「自己効力感」の高まり、っていうのかもしれない。

そのさなか、東京で3月にもうひとつの上演をしてくれる劇団から動画が届いた。私が11月ごろに書いたセリフが稽古で立体化されつつある。どうでしょう、と感想を求められたから私は書いた。

「おつかれさまです。
拝見しました。
時間短縮のために、相当急いで読まれたんですね。
読み違いなどないように思いました。ところどころ聞こえづらいところがあったので、早口で。そこんとこはチェックできてないかもしれないですが。
いい印象の読み合わせだと私はうけとめましたよ。
むしろ、この状態くらいが本番でいい、と思ってるくらいです。
多くの役者さんは、ここから、表面をつよく、おおげさに、高く低くする、誇張と単調化をデコレーションとして始める、という例が多いですが、そうならなければいいなあ、と祈っています。表面でどう装っても、役者が内心で何を感じているか、のほうがたくさん客席には伝わるものです。
力を抜いて。入れないで。感じている程度以上の抑揚はつけないで。つまりなるべく平たんに。なるべく淡々と。なるべく棒読みで。本番までに“いわゆる上手”ふうにはならないで。
どうしてもあふれでてくる声やら息やらは抑えない。だけどこしらえた息やら抑揚やら刺激やらは、もう捨てよう。表現はゼロがいい。表現はへたくそがいい。
なぜなら　市井の、町を呼吸するなまの人間たちは　なるべく感情を外に出さないようにこらえているもので。強い感情を持つ人ほどそれを漏らさないように頑張ってるのが普通の人の状態で。演技としては「へたくそ」なので。
だから、漏らさないように気をつけている役者さんの状態のほうが、客には強い感情を伝えますよ。泣きたいと思ったら、泣かないように頑張るのが先だ。悲しい感情は後からついてくるから放置する。それが泣くための最短距離。そう私は考える派です。

ああごめんなさい。言わずもがなの意見をしてしまいました。気にしないでください。作者は遠くからいのることしかできないのです。無視してください。

最上の興奮を。祈っています。」

こうやって人に与えた意見は、そのまま、自分の稽古にはねかえってくるのだ。――表面的なデコレートをしたくなる欲を抑えられるのか？「なるべくへたに」なんて高い理想を、「よく見られたい」あさましい役者の私は実践できるのか？自分ができもしないことをよく人に言えたね。――
私は挑戦する。六十男の苦悶を、どうか愛媛まで皆さん見に来てください。
（劇作家　公認心理士　鈴江俊郎）

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《鈴江俊郎作品上演情報》
２０２４年２月２４日(土)　ドラマリーディング三本立て企画
「沈みゆくこの国へ」を共通のテーマとして関西・四国在住の劇作家が新作の作品を上演します。
作・演出　鈴江俊郎　上品芸術演劇団「とんでもなくとおくからとうてみる」
作・演出　水上宏樹　オセロット企画「冬休みの晴れた午前中」
作・演出　南出謙吾　ひとり芝居「よわぶくみの大志」
愛媛県西条市　伊予西条駅前の■Ishizuchi倉庫　にて
13時―20時
劇作家三人によるトークがあります。
詳しくは　https://twitter.com/shiroinuma_000　まで。