そもそもどうして

イラスト:すずえゆみこ

そもそも、なぜ人は武器を持つのか。
パレスチナの地で、戦闘が始まった。ハマスの兵士が壁を越えて、イスラエルの土地を攻撃した。残酷な行為が行われ、人が大勢死んだという。そして唯一の超大国はイスラエルによる反攻を支持し、援助を約束した。地上戦が始まるらしい。リーダーは始まる前から「この戦争は長期化するだろう」と語った。道徳の神のようにふるまう西側の報道機関やネットニュースはパレスチナの側の非道を責め立てる。ハマスは悪魔の手先に思えてくる。だけどその前から「天井なき牢獄」の非道はあったんだよ?
私は家の近所のマクドで安いコーヒー。午後を過ごしている。パソコンを開いてる隣の席には女子高生たち。清潔感。制服は小さな声で笑いあっている。「パレスチナ」や「イスラエル」を彼女たちに語っても、ただ「ウザがられる」だけだろう。店内は西側世界の音楽が心地よい。ここが私の、いまだ。
帝国主義の非道を問うて銃を乱射した日本人組織は「過激派」呼ばわりされて嫌悪されてきた。知人はイスラエル国内の反体制演劇を研究する人で、「明日のハナコ」事件の人権抑圧をともに怒ってくれた。いろんな感情の人が頭にうかぶ。だけどマクドの店内は平和だ。流血などどこで起こってる?それが私の、いまなのだ。
でもそもそも、と私は思う。人は、ひとりずつ、想像する。想像は小さいけれど、想像が集まると、確かな事実のように実体をつくる。行動は必然として生まれる。じゃなけりゃ、人間はこの地球を何回も全滅させるほどの量の核兵器なんか持たないだろ?せめて、一回分くらいで十分だろ?お互いが相手を全滅させたいと思っているのだったら、足し算したら一回分になるのに。巨額の血税に、説明がつかない。明らかにおかしいのだ人間は。
お互い、「相手が」自分たちを滅ぼそうとしてる、と恐れてる。だから武器は必要だっていう。そういうのが大勢集まって投票され代表に選ばれ予算が決まる。だけどちょっと落ち着いて想像したらいいのに。私は、人を愛したい。相手も、同じように愛しあいたいって願ってるだろう。くつろぎたいのだ。つまり、世界は善意でできている。悪意があるなんて妄想だ。
……いやほんとにそうなんだろうか?ほんとに悪意はないのか?……そこだよ。善意でできてる、って思うのも、悪意でできてる、って思うのも、実は勝手だ。自由に思えばいいだけの話だ。どう思うか、によって世界で何が起こるか、が違ってくるのだ。だったら、世界がいいことになるように思おうじゃないか。
プラシーボ効果というものがある。偽薬効果。ニセの薬、ただの小麦粉でも「薬だよ」と渡されてのんだら、病気は軽くなる。新薬の効果があるのか調べるのは「飲まない人」対「飲んだ人」の比較ではだめなのだ。そりゃ「飲んだ人」が勝つにきまってるからだ。偽薬を飲んだ人と新薬を飲んだ人を比較するのが今の科学の知見だ。明らかに「気のせい」で、人は身体まで変化してしまう、ってことだ。
じゃパレスチナもイスラエルもにせ薬か?実際は何もないのか?そんなことは言ってない。今はそうなんだろう。だけど、そもそもは、文字が生まれる頃の歴史から言えば、憎しみも殺し合いも、にせ薬からじゃないか。だったら、今からだってなんとかできるんじゃないのか?
そうだ。だから、ここでおじさんが一人、こんな遠い土地の、流血のないマクドナルドの店内で、流血のことをかなしむのは、無力ではない。人が一人なにかを思うことは小さくはないのだ。
マクドの店内は女子高生が小さく笑う声がさざめいている。くもりぞらが大きな窓を明るくしてる。私はなんだか弱っている。それが私のいまだ。
(劇作家 公認心理士 鈴江俊郎)


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