かわらじ先生の国際講座~いま中東で起こっていること

No Picture中東情勢が混沌としています。10月7日早朝、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義武装組織のハマスが、イスラエルに対しかつてない大規模の攻撃に出ました。ガザからイスラエルに向け数千発のロケット弾を撃ち込み、戦闘員がイスラエル南部に侵入して一般市民を銃撃し、多数の人質をガザに連行しました。
不意をつかれたイスラエル側は、このハマスによる攻撃を「イスラエルにとっての9.11(2001年の米同時多発テロ)だ」(イスラエルの国連大使の言)だと位置付け、戦時下の挙国一致内閣を樹立し、ガザに対する苛烈な空爆を続けるとともに、ガザの電気や食料、燃料を遮断する包囲作戦を展開しています。
イスラエルは大規模な地上戦の準備を進めている最中ですが、各種報道によると、すでにガザの避難民は100万人を超え、軍事衝突による死者は双方合わせて4000人を超過した模様です(パレスチナ側約2700人、イスラエル側約1400人)。ガザ市民は退避もままならず、絶望的な状況下に置かれているようです。
そもそもなぜ今、この紛争が勃発したのでしょう?また、今後この軍事衝突はどこまでエスカレートするのでしょうか?

ご存じのようにパレスチナとイスラエルの対立は非常に根が深く、1948年、パレスチナの地にイスラエルが建国して以来、第1次~4次中東戦争が行われ、夥しい犠牲者を出しました。
1993年、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)は共存の道を選び、ヨルダン川西岸とガザ地区をパレスチナ人の暫定的な自治区域とすることになりました(オスロ合意)。しかし双方における強硬派の台頭で、この合意は履行されず、それぞれが相手のせん滅を目指していくたびも武力衝突を起こし、今日に至っています。

No Picture今回、戦端を開いた武装組織ハマスも、パレスチナ側の強硬派なのですね?

そうです。パレスチナ自治区には自治政府があり、PLOのヤセル・アラファト議長没後、2005年からマフムード・アッバス議長が17年にわたって統治しているのですが、権力乱用や汚職・腐敗が著しく、すっかり人心を失ってしまいました。2007年にパレスチナ自治区内で武力衝突が起こり、ヨルダン川西岸は引き続き自治政府が統治していますが、ガザ地区はハマスが実権を握り、イスラエルと鋭く対立しています。
一方、イスラエル側も人口増加などからオスロ合意を破り、パレスチナ自治区の土地を奪い、入植地の建設を進めて住宅不足を補っています。イスラエルのネタニヤフ現政権も極右政党などと手を結び、イスラエル史上最もタカ派的な政策をとり、パレスチナに対する極めて強硬な策を講じてきました。今回のハマスによる大規模攻撃の以前に、イスラエル側は何度もパレスチナ人への攻撃を仕掛けてきました。

No Pictureとすると、ハマスの攻撃は、イスラエルへの報復と見てよいのですか?

その一面もたしかにあります。しかし事はもっと複雑で、国際的な背景も見え隠れしています。ハマスの背後にはイランの存在があるともいわれています。またそのイランを後ろ盾とするレバノンのイスラム主義武装組織ヒズボラも、ハマスへの支持を表明し、ハマス支援のための参戦を示唆しているのです。

No Pictureどうしてこのような国際的様相を呈するのですか?

実は近年、イスラエルはアラブ諸国と次々に関係を正常化させてきました。2020年にはアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンとも国交を樹立しています。そして現在、イスラエルは米国のバイデン政権を仲介役として、サウジアラビアとの国交樹立を目指しています。これらアラブ諸国は長年、パレスチナ建国の大義を支持してきましたが、自国の利益を優先し、パレスチナを置き去りにする形で、イスラエルとの良好な関係を選択したわけです。
これはパレスチナからすれば、アラブ諸国の裏切りに他なりません。そして米国と対立するイランとしてもますます孤立が深まることになります。そこでパレスチナのハマスを後押しし、イスラエルへの軍事攻撃を手助けしたとされます(少なくとも攻撃用の兵器を提供しています)。イスラエルがハマスに反撃し、多くのパレスチナ人を犠牲にすれば、さすがにサウジアラビアもイスラエルとの関係改善はストップせざるを得ないでしょう。

No Picture反イスラエルで、アラブ諸国は再び結束するということですか?

そのとおりです。イスラエルによるガザへの空爆が激しさを増すなかで、UAEはイスラエルとの距離をとり出しました。ハマスによるテロには賛同できないが、パレスチナの世論は無視できないというわけです。サウジアラビアもイスラエルとの関係正常化プロセスを凍結しました。サウジのムハンマド皇太子はイランのライシ大統領と電話会談し、イスラム世界としてパレスチナを支えることで一致したと伝えられています。イラクやイエメンなど周辺諸国でも、「神は偉大なり。イスラエルに死を!」と唱えて民衆がデモを始めました。まさに反イスラエルでアラブが結束を取り戻したのです(『京都新聞』2023年10月16日)。

No Pictureこの先、中東にはどのような事態が待ち構えているのでしょう?
米欧諸国はいち早くイスラエルへの支持を表明しました。他方、ロシアと中国、特にロシアはパレスチナ寄りのスタンスをとっています。G7議長国の日本は欧米との連帯を示すべき立場にありますが、原油の9割以上を中東からの輸入に依存しているために、厳しい外交を迫られそうです。

そのなかでイスラエルは戦時内閣をつくり、地上侵攻への準備を着々と進めています。イスラエルの目的はハマスの壊滅です。イスラエルとハマスの戦争は、関係諸国を巻き込んで最悪の事態を招きかねません。水面下で各国が仲裁を試みているようですが、すでに数千人の死者(負傷者はその何倍にもなるでしょう)と膨大な避難民が出ている以上、戦争に向けて大きな歯車が回り出し、誰にもこれを止めるすべがないように思われます。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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