かわらじ先生の国際講座~鈴木宗男議員の訪露

No Picture日本維新の会に所属する参議院議員の鈴木宗男氏が、10月1~5日の日程でロシアを訪問しました。日本外務省はロシアを「渡航中止勧告」以上の危険レベルに指定し、議員に限らずすべての日本国民に渡航を止めるよう求めているなかでの訪問でした。また鈴木氏が、党則として定めている海外渡航の際の事前届け出を怠ったとして、日本維新の会は近々、除名を含めた厳しい処分を同氏に下すとも伝えられています。鈴木氏が、現地のメディアに対し、ロシアの勝利を確信する等と述べたことも物議をかもしています。

鈴木議員の訪露をどう評価しますか?

まず確認したいのは、鈴木議員が決して法律に違反した行動をとったのではない点です。政府は渡航を禁じているわけではありません。まして公人であれば、職務上ロシアに行くこと自体が問題なのではありません。日本維新の会のルール破りに関しては、党と鈴木氏の問題ですから外野がとやかく言うべきことではないでしょう。ロシアを利する発言は、日本の国益に反するとの意見も各方面から出ているようですが、これも批判するにはあたりません。たとえば大臣などの政府関係者であれば、行政担当者として基本政策からの逸脱は許されません。しかし鈴木氏は野党の議員であって、政府与党の立場と異なる見解をもつのは当然ですし、国民の多元的な価値観を体現して行動するのが本来、政治家というものです。ですから彼の言動が国益に反するか否かの判断は、一義的に下せるものではありません。

No Pictureそれにしてもなぜこの時期に鈴木氏はロシアに赴いたのでしょう?

鈴木議員はロシアのウクライナ侵攻開始当初から、「原因を作った側にもいくばくかの責任がある」と述べ、ウクライナ側の「落ち度」を指摘していました(『讀賣新聞』2022年3月15日)。その点では主張は一貫しているといえるでしょう。北海道の出身で、道民の利益を考え、北方領土問題の解決を含めた日露関係の改善をライフワークとしてきた人ですから、いわば筋金入りの「親露派」です。プーチン氏が2000年に初めて大統領に就任したとき、最初に会った外国人政治家であるとも自負しています。ですからウクライナ戦争の停戦に向け、ロシアに何事かの働きかけをしたいというのは、彼の念願なのだろうと思います。
本来は、今年5月3~7日に訪露する予定で、参院議院運営委員会理事会も4月26日に渡航を了承していました。但し維新の会内部からは反対の声もありましたが。しかし面会を予定していたロシア側の相手との日程調整がつかず、取りやめになった経緯があります(『讀賣新聞』2023年5月3日)。ことによるとG7広島サミットを間近に控え、サミット参加国に誤った印象を与えかねないと危ぶんだ政府から、時期を改めるよう要請があったのかもしれません。ですから、それから5ヵ月を経て、満を持しての訪露だったのでしょう。

No Picture具体的な成果はあったのでしょうか?

ロシア側はアジア担当のルデンコ外務次官、前駐日大使のガルージン外務次官、ロシア上院のコサチョフ副議長など対日外交にそれぞれ影響力のある人物が面談に応じました。そして鈴木氏も道民たちの要望(漁業における安全操業や北方領土への墓参再開など)を伝え、ウクライナ戦争の停戦を訴えたようです。しかしロシア側としては、あくまでも意見を承るというスタンスで、それがロシアの政策に何らかの影響をおよぼすとは考えづらいように思います。やはり事態を動かすためには、政府間交渉しかありません。

 HTB北海道ニュース 
【緊急特集】突然のロシア訪問 鈴木宗男議員の行動の意味は?意義は?専門家は、...
https://www.htb.co.jp/news/archives_22843.html
ロシアを訪問していた鈴木宗男参議院議員が5日午後帰国しました。突然の訪問は、北方領土の元島民を始めとした関係者に衝撃を与えました。この訪問の背景や今後の日ロ関係への影響について、緊急特集です。突然の…

No Pictureでは、単なる鈴木氏のスタンドプレーで、政治的な意味は見いだせないということでしょうか?

そのへんの見極めは難しいところです。わたしは鈴木氏の政治家としての「嗅覚」をあなどれないと感じています。プーチン大統領は10月5日、ソチで開かれた国際会議(バルダイ会議)で、日本と対話の用意があるとし、そのためには日本側がイニシアチブをとるべきだとの考えを示しました。この発言が鈴木氏の訪露とどう関係するのかは不明ですが、まんざら無関係だとも思えません。ひょっとするとプーチン大統領は、鈴木氏の訪露などに鑑みて、そろそろ日本側が折れてくる時期だの感触を得たのでないか。

No Pictureかりにプーチン氏がそう考えたとして、より客観的な根拠はあるのですか?

昨今、ウクライナ産穀物の輸出をめぐって、ポーランドを始めとする東欧諸国がウクライナと反目していることはご存じのとおりです。つい先日、東欧のスロバキアで行われた総選挙では、親露派の左派・ポピュリスト政党が第1党となりました。米国でも、ウクライナ支援に反対する共和党の力が増しています。わが国でも増税や物価高にあえぐ国民のあいだでは、ウクライナ支援より自国民の救済を優先しろとの世論がネット等でよく見られるようになってきました。来年の今頃には、米国の大統領選の行方もほぼはっきりしてくるでしょう。共和党陣営の勝利ということになれば(あるいは民主党側の優勢にせよ、共和党がほぼ互角の戦いをすれば)ウクライナへの支援政策は方向転換せざるをえなくなるはずです。日本もそれに歩調を合わせるでしょう。1年を待たずしても、ロシアの盟友である中国と米国の首脳会談や、日中韓首脳会議の再開などが実現すれば、対露政策の軟化をもたらす可能性もあります。そのとき、鈴木宗男議員の今回の行動は、さきがけ的な意味合いをもつものだったと再評価されるかもしれません。

—————————————
河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30