カナリア朗読劇場~日本国憲法第66条

憲法朗読第3シリーズ4回目は、第五章 内閣から内閣の組織と責任を定めた第66条です。朗読はフリーアナウンサーの塩見祐子さん、イラストはかしわぎまきこさん、解説は立命館大学法科大学院教授の倉田玲さん、動画の再生時間は53秒です。引き続き第13条・第81条はこちらから、第14条第1項はこちらから、第43条・第15条第2項はこちらからお聞きください。

《第66条解説
日本国憲法の第5章「内閣」の最初にあるのは、第65条の「行政権は、内閣に属する」という規定ですが、この「行政権」というのは、国の役所仕事の多種多様な権限の総体ですから、その全体像を簡潔に定義することは、どうにも難しく、仕方がないので、国家権力の全体から、すでに前回までの解説のなかで言及しました第4章の「国会」の「立法」という仕事をする権限と第6章の「裁判所」の「司法権」を除いた残りだと説明されるのが普通です。それが「内閣に属する」というのは、もちろん「内閣」だけが「内閣」だけで「行政」の仕事を全部やり切るという非現実的な無理難題を意味しているわけではなく、そもそも「国会」や「裁判所」により、それぞれ「立法」や「司法」の権限が独占されているのとは大いに異なります。第72条には、「内閣総理大臣」の職務として「行政各部を指揮監督する」ことが挙げられており、第73条第4項には「内閣」の職務として「官吏に関する事務を掌理すること」が挙げられていますが、「行政権は、内閣に属する」というのは、日常的に「行政権」を動かしている役所(「行政各部」)の国家公務員(「官吏」)の総元締めが「内閣」だということを意味しています。
第65条の直後にあるのが今回の本題である第66条ですが、その第1項に、「内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する」と定められているのは、アメリカ合衆国やフランス共和国とは大いに異なり、1人の大統領が総元締めではないということを意味しています。第72条に定められているとおり、「内閣総理大臣は、内閣を代表」するのですが、もちろん1人で「内閣」というわけではなく、地方公共団体の「首長」である都道府県知事や市町村長とも異なります。もちろん「内閣総理大臣」は、第68条第1項に定められているとおり、自分以外の「国務大臣を任命する」ことができ、第2項に定められているとおり、「任意に国務大臣を罷免することができる」のですから、そもそも大日本帝国憲法に「内閣」の定めがなかった時代に、同輩中の首席などと呼ばれていたのとは異なり、強力なリーダーシップを発揮しやすいように位置づけられているのですが、それでも大統領や都道府県知事や市町村長のように単独で「行政権」を掌握しているわけではありません。
第66条第2項に「文民でなければならない」と定められているのは、大日本帝国憲法の時代に文官と武官が区別されていたことを思い返してみますと、要するに武官であってはならないということだと理解することができそうですが、日本国憲法には第2章「戦争の放棄」の第9条があり、その第2項に、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定められているのですから、そもそも軍隊などなく、それゆえ軍人など存在しないことが想定されているはずでしょう。それでも「文民でなければならない」と定められているのは、おそらく軍人のような発想や思考をする経歴がある人も「行政権」から遠ざけて、国の多種多様な役所仕事が総じて軍事とは無縁であるべきだということを指し示しているのでしょう。平和憲法とも呼ばれてきた日本国憲法に、「議員」や「裁判官」についてではなく、もっぱら「内閣総理大臣その他の国務大臣」についてのみ、とくに「文民でなければならない」と定められているのには、国をあげて戦い敗れて崩れ去った大日本帝国憲法の時代の反省が、とりわけ色濃く反映されているのでしょう。
このシリーズに取り上げてもらっている第66条の解説として、とりわけ強調させてもらいたいのは、その第1項や第2項ではなく第3項です。もちろん「行政権」が「内閣総理大臣」個人ではなく「内閣総理大臣」を筆頭とする「文民」の小集団に託され、預けられているという仕組みも重要なのですが、この仕組みには、当然のことながら、託して預けている側もあります。第66条第3項に、「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」と定められているのは、前回の本題でありました第43条第1項に、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と定められているのと、くれぐれもつなげて読まれたいところです。大統領のような個人ではなく小集団として「国会に対し連帯して責任を負ふ」のですから、たとえば衆議院から不信任を突きつけられるようなときには、第69条に定められているとおり、「内閣総理大臣」や「国務大臣」が個別に身を引くのではなく「総辞職をしなければならない」のですが、このように政治的な「責任」が追及される民主主義の仕組みの根本には、「国会」の「両議院」の「議員」により「代表」されている「全国民」の存在があります。第66条第1項の「法律の定めるところにより」という定め方を受けて、「国会」が内閣法という「法律」を定めていますが、その第1条第2項に、「内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う」と定められています。

※次回は6月28日(水)に第97条を公開予定です。


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