2021年から大学入試が大きく変更になり、現行の大学入試センター試験に代わる新しい入試方法が導入されることとその問題点については、これまでにも紹介をしてきました(例えば1/31の「新しい入試(2021年1月~)への懸念と疑惑)」。
6月18日になりますが、新しい動きがあったので紹介します。英語での民間試験の導入に反対をしている学識者のグループが、衆参両院に導入中止を求める請願を行い、署名を提出しました。
このニュースは、夕方のNHKの関東地方のニュースでは放送されたのですが、全国では放送されていない模様です。ただwebには掲載されていますし、新聞でも報道がありました。
他方で、大手メディアはいろいろと忖度してトーンダウンした記事になっているという指摘も。
NHKよりも朝日よりもゲンダイの方が会見の雰囲気や、熱意を伝えており、天下りの事実も付け加えられている。#英語民間試験いらないhttps://t.co/13NEhutVMV
— ドン・キショット (@basskobata) June 20, 2019
なお、記者会見・院内集会の模様をYou Tubeで見ることもできます。
冒頭で代表の羽藤教授が話していますが、実質1週間で8000筆を超える署名が集まったということで、これはすごいことだと思います。この集会には文部科学省の方にも来ていただくように要請したそうですが、都合がつかないという返事だったとのことでした。
ひとつ補足をしますと記者会見に臨んでいる教授陣には、荒井克彦教授や、南風原朝和教授などの、日本のテスト研究の第一人者が顔をそろえていることっです。テスト研究というのは、個人の能力や適性などをできるだけ正確に測定するための試験(テスト)のあり方を研究するものです。日本テスト学会という学会もあります。入学試験のあり方についても、当然のことながら高い専門性を持っている方々です。
請願の内容や新制度の問題点の詳細はこちらから読めます。
— Junko Nishigaki (@JNishigaki) June 25, 2019
大学入試問題としての精度も低い、受験生が支払わなければならない費用も高い、受験生が住んでいる地域による利便性の格差も大きい、高校教育にも弊害を与える、そんな問題の多い入試が導入されることで、最も大きな被害を受けるのは受験生です。柴山文部科学大臣は「やらずに後悔するよりやって反省」なんて言っているそうですが、受験生の人生を何だと思っているのでしょうか。
柴山昌彦文部科学大臣
大学入学共通テストは「やって反省」では済まされません。英語民間試験の利用について指摘されている多数の深刻な問題を来年4月の制度開始までに解決できないなら,中止あるいは延期しかありません。大臣の勇気ある決断をお願いします。
新制度の問題点https://t.co/8uQnr8vhku https://t.co/5ype561VVx
— KIT Speakee Project (@KITspeakee) June 23, 2019
なお、国会の閉会に伴い、請願はこのように扱われました。こちらのツイートの右上のtwitterのハト型のロゴマークをクリックしていただくとより詳細を見ることができます。
【ご報告:国会請願に参加してくださった皆さまへ】
「2021年度大学入学共通テストにおける英語民間試験の利用中止に関する請願」にご参加くださり,ありがとうございました。私たちの請願は衆参両院で「審議未了」として保留扱いとなりました。https://t.co/xMqHOxsnjLhttps://t.co/C4kleeYlBQ— KIT Speakee Project (@KITspeakee) June 28, 2019
※追記
週末にこの時期を書いた後、7/2火曜日にまた新しいニュースがありました。入試に利用する民間試験として文科省から認定を受けていたTOEICが撤退を表明しました。
ほう。
「TOEIC 大学入学共通テスト撤退へ 運営複雑理由に 受験生に影響」
“TOEICを実施するIIBCは撤退理由について「受験申し込みから実施運営、結果提供に至る処理が当初の想定よりも複雑になることが判明した。責任を持って対応を進めることが困難であると判断した」”https://t.co/CzKFAP3CmO
— これでも大学職員 (@koredemo) July 2, 2019
今の時期の撤退は「責任感のある勇気ある撤退」という評価もできるかもしれません。他方でここにも民間試験のリスクがあるとも言えます。当該企業の都合で「今年からやめます」と突然に言われる可能性があるということですから。大の大人でも混乱すると思うのですが、10歳代の高校生には酷です。
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。