かわらじ先生の国際講座~トランプ大統領の訪日を振り返って

トランプ大統領が4日間の日本滞在を終えて帰国しました。その成果をどのように見ますか?

日本は大統領に対し、「見事な接待外交」、あるいはこれ以上ない「おもてなし」をしたように思います。カッコを付けたのは、皮肉を込めたつもりです……。

国賓ですから当然では?

しかし、この様子を見たアメリカ国民は、本当に日本に感謝しているのだろうか。というのは、わたしにはこれが何だかトランプ氏個人に対する安倍氏個人の接待のように見えて仕方なかったからです。

どういうことでしょう?

まず4日間のスケジュールを整理してみます。
・25日午後、トランプ大統領来日。
・26日午前、安倍首相とゴルフ。午後、相撲観戦。夜、炉端焼き店で夕食。
・27日午前、皇居で歓迎行事。その後日米首脳会談。午後、拉致被害者家族と面会、共同記者会見、その後、宮中晩さん会。
・28日午前、両首脳で海自横須賀基地視察。大統領のみ米艦も視察。午後、帰国。

大相撲の締めくくりはトランプ大統領から朝之山への大統領杯授与。大統領はお客というよりも主役の感がありました。まるで首相官邸も皇室も角界も、トランプ氏夫妻をもてなすための演出で一生懸命という感じを受けたのです。

しかしこれが日本の国益になり、日米関係の絆を強め、さらには国際情勢の安定に資するならば問題ないでしょう。

そうであればよいのですが……。しかし、このたびの訪日にはいくつか異例な点がありました。まず、今回トランプ大統領はアメリカから日本に直行し、日本からアメリカにまっすぐ帰りました。ふつうリーダーは公務で外国に出かける場合、他国にも立ち寄るなど、緻密な政治日程を設けます。ですが今回トランプ氏は、日本のためだけに来てくれたわけで、これは日本側に大きな「貸し」を作ったのか、日本側の歓待が自らの威信を大いに高めてくれるとの計算があったのでしょう。しかも、共同声明は出しませんでした。政治的な内容に関していえば、あまり重みのない訪問でした。首脳会談もトータルで3時間ほどだったようですし(その内半分は通訳の時間です)。

しかし日本側にもメリットはあったはずですが。

7月の参院選が終わるまで、日米貿易交渉が先延ばしされることになりましたので、政府としては助かりました。交渉の結果によっては選挙に悪影響が出る恐れもありますので。しかしトランプ大統領は「8月に大きな発表ができる」と表明しましたので、日本側にそれほど持ち時間があるわけではありません。トランプ氏は、日朝会談を全面支持すると述べましたし、拉致問題解決への支援も約束しましたが、これも懸念がないわけではありません。北朝鮮の短距離ミサイル発射や制裁問題についても、アメリカは独自の姿勢を見せており、必ずしも日本と共同歩調をとっていません。安倍首相がアメリカとイランの関係を仲裁するため、来月イランに行くことをトランプ氏は歓迎したと報じていますが、トランプ氏がそんな重要なミッションを安倍氏に託すとは、わたしには信じがたいことで、これも安倍首相に花を持たせただけのポーズではないか疑っています。

懐疑的ですね。

懐疑ついでにいいますと、両首脳が横須賀基地に行き、日米両部隊に訓示を行いましたが、トランプ氏はその際、「日本政府が決めた105機のF35購入方針と、空母改修に言及」し、「F35を搭載することで日本が地域内外の脅威に対応できるようになると強調」したそうです(『京都新聞』2019年5月28日付夕刊)。結局、日本はアメリカの高額な軍事装備を大量に買わされ、その上、自衛隊をアメリカ軍の下請け組織にさせられてしまったのではないか。そんな疑念を強く抱いています。トランプ氏にとっては大きな成果でしょうが、これが日本の国益なのか。また、日本は今回、トランプ氏を最大限に歓待しましたが、反トランプ派のアメリカ世論は、これをきっと苦々しく見たに違いありません。このことも忘れてはいけないと思います。

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原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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