学校向け「放射線副読本」の話

2012年の秋に私が大学でやっていた授業の1コマです。10人ほどの学生が受講する少人数のクラスでした。この年は珍しく、30歳を過ぎた年長の学生さん(当時の私とあまり年が変わらない学生さん)が一人いました。他は18-19歳の1年生でした。
話の流れで原子力発電の話になりました。私が「先生が子どものころ、原子力発電の可能性と危険性の両方を習ったけれども、最近は原子力発電はクリーンで良いものと教えているようですね」と発言しました。すると年長の学生が「自分が小学校の時に見た副読本で、原子力発電所には怪獣の絵が描いてあった」と言いました。それを聞いた18歳の学生が「ぼくが覚えているのは、正義の味方のスーパーヒーローみたいな絵が描いてあった」と言って、互いに「え~っ!」となったことがあります。
年齢の違う学生さんがいてくれると、学びが深くなって良いですね。

それはともかく、カナリア倶楽部の読者の方は中高年層が多めと思います。その方々が学校で習ったであろう原子力発電所と、概ね1990年代以降に学校に行っていた若者や子ども達が習っている原子力発電所はイメージが全く違います。そのことを念頭に置いて、こちらのニュースを見てください。
文部科学省が全国の小中学校と高校に昨年配布した「放射線副読本」の最新版を滋賀県野洲市の教育委員会が回収を進めているというニュース、京都新聞にも掲載されていましたのでご存知の方も多いかと思います。


朝日新聞にもありました。


副読本の原本はこちらから読めます。


私も読んでみましたが、大きな違和感がありました。
原子力発電所の問題が「福島の人々への不当な差別やいじめ」の問題にすり替わっているような印象を持ったからです。放射線とはそもそも何であるかについての記述があります。原子力利用の利点や安全確保のための工夫や努力の記述もあります。それらが「光」であるとするならば、「影」にあたる記述は、福島第一原発の事故によって、福島の子ども達がいじめにあったり、福島の人々が差別されたり、福島の農作物や物品が不当な風評被害に遭っていること…、なんだか変ではないでしょうか?
私は、福島の事故は、日本全体で背負う必要のあることだと考えています。福島の人々が誠心誠意安全を確保しながら作っている農産物や物品は、可能な限り買うようにしています。福島の人々が、福島にとどまる権利も福島を立ち退く権利も、両方が保障されるべきだと思っています。ですので、風評被害の払拭に反対はしませんし、差別やいじめなんてとんでもないことだと思います。
しかし、原発事故そのものは今もまだ収束していないのです。汚染水の問題もあります。またなにより、全国の原発が稼働する限り増え続けている放射性廃棄物をどうやって無害化するかという問題には、解決のめどすらないのです。そういう問題には触れないで、原子力発電の問題点を「風評被害と差別・いじめ」に限定するのはやっぱり変だと思います。原子力利用の影を隠ぺいして、間違った判断を子どもたちにさせようとしていないでしょうか?

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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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