かわらじ先生の国際講座~政治家の戦争発言

衆議院議員の丸山穂高氏の発言問題ですね。同氏が北方領土へのビザなし交流に参加し、国後島に滞在中の5月11日夜、団長の元島民に対し「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」「戦争しないとどうしようもなくないですか」などと議論を吹っ掛けてきたのでしたね。

はい。その場のやりとりが録音され、各メディアでも流されましたので、たとえば次のサイトで内容をご確認ください。同行の記者が団長にインタビュー中、丸山氏が割り込んできたため、たまたま記録されたようです。

日本維新の会は丸山氏を除名処分とし、野党6党派が議員辞職勧告決議案を、自公両党はけん責決議案を衆議院に共同提出しましたが、この発言の問題点を整理してください。

第一に、日本国憲法は第9条で「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と謳っていますから、戦争による領土問題の決着を煽るような丸山氏の発言は、国民の代表者たる国会議員として重大な憲法違反です。第二に、戦争のせいで故郷を喪失した犠牲者であり、もう二度と戦争があってはならないと考える元島民への侮辱ともいえる発言であり、あまりに厚顔無恥と言わざるを得ません。第三に、日露両国の信頼関係醸成のための使命を担って訪れた国後島で、このような挑発的言辞を弄することも常軌を逸しています。第四に、そもそも政治家とは、国家間の係争を武力によらず交渉によって解決することを使命とする職業です。その政治家が戦争を口にすること自体、職業倫理にもとる行為であって、政治家失格でしょう。こうした扇動発言をする政治家をデマゴーグと言います。

今回の事態が日露関係に与えた影響は大きいのでしょうか?

菅官房長官は丸山氏の発言を批判しましたし、日本側はいくつかのルートでロシア側に謝罪したようです。ガルージン駐日大使も丸山氏の発言は「受け入れがたい」としながらも、これによって両国の関係が逆行することはないと述べています。今のところロシアはかなり冷静に対応しています。但し今後ロシアがさらに態度を硬化させるときの理由を与えてしまいました。さらに、今回の件はロシアだけでなく他国も注目し、大きく報道したようです。たとえば日頃あまり日本を話題にすることのないイギリスのBBCワールドニュースも今回の件を繰り返し報道した由です。

日本の国際的な信用度はかなり損なわれたと言わなくてはなりません。しかし問題の本質は、まだ十分明らかにされていないように思われてしかたありません。

どういうことですか?

わたしの懸念ないし疑惑は二つあります。まず一つ目は世代交代の問題です。丸山氏は1984年1月生まれの35歳。戦後生まれであることはもちろんですが、わが国の平和主義を自虐史観によるものだと退ける「新しい歴史」教育の洗礼を受けた世代だということです。戦争や軍事を持ち出すことにためらいを感じない世代が日本の国政の中心に登場しつつあるわけですが、このことがわが国の政治をどのように変えていくのか。この世代の野心をもった政治家はちょっと怖いと感じます。平成から令和へ元号が改まったことは何事かを象徴しているように思えます。

もう一つは何でしょうか?

丸山氏は国会の沖繩及び北方問題に関する特別委員会の委員でした。これは各会派の議席数に応じて配分され、選出されるので、日本維新の会から丸山氏が任命されたのでしょう。議員は何かの委員会に属さなくてはいけませんので、たぶん丸山氏自身もこの委員になることを望んだのだと思います。つまり何が言いたいかというと、今回の発言は彼がたまたま国後島で思いついた偶発的なものでなく、折にふれ仲間内で口にしていた持論なのではないかと推測されるのです。政府与党にしても、寝耳に水というわけではなかったのではないか。ひょっとすると政治家の間では笑って聞き流すか、同調していたような気がしてなりません。今回は初めて表沙汰になったので大きな問題となりましたが、一度タブーは破られると、二度目以降はずっと敷居が低くなり、追随発言が出て来るかもしれません。これが改憲論と結びつくと、その先は「オレは改憲がしてー!」の延長の「オレは戦争がしてー!」になりかねない。

それは困ります。

平和と戦争の問題は政治家だけに任せておくには重大すぎます。われわれ一人一人が受け身ではなく、もっとアクティブにかかわっていく必要性を感じます。令和は日本にとって試練の時代になる予感がします。

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原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。

 


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