高齢期の暮らしと住まい(47)

デンマークの「地域包括支援センター」のようなところのロビー(オシャレ)

北欧の社会保障

手厚い社会福祉制度で知られる北欧、筆者もデンマークに2回、フィンランド、スウェーデンと高齢者政策・住宅視察で訪れました。4ヵ国の中でノルウェーだけ未踏の地なのですが、先般30年のノルウェー生活から帰国された80代の女性にお話を伺う機会を得ました。ノルウェーに暮らす前にも欧米に20年、合計50年の海外生活から、なぜ最後は日本に帰国することにしたのか、お話を伺いながら納得することもありました。筆者は「高齢期の住み替え」について各地で講演をすることが多く、「老後は北欧に住み替えるのはどうか」と質問されることもたまにありますが(苦笑)、現実的ではありません。

 

北欧の公的機関や介護施設はオフィスがガラス張りでオープン、ほぼ電子化されているのでペーパーレス

負担と福祉

手厚い福祉の北欧ながら、高い税金でも有名です。北欧は「社会民主主義」であり、垂直分配(税金は相対的に高く、その税金は国民が平等になるように分配される)が中心です。従って、現役時代は「半分が税金」と言われるように、負担率は高いのです。ノルウェーの場合、所得税は25~50%、消費税は25%(欧州はほとんどの国が25%前後)なので、実質半分以上が税金ともいえます。では社会保障制度は? ノルウェーの場合、年金は保険でなく税原資なので、受給資格は16~67歳の間に40年間「住んでいる」こと。受給開始は67歳です。40年居住により満額約17.5万円(月/円換算)、勤労者の平均(日本の厚生年金該当)が20.2万円ですから、「垂直分配」の意味がわかると思います。医療費は年間約3.1万円を超えると超えた分は無料(2018年度、所得等により若干異なる)。老後の心配がないので、預貯金をする人は少なく、多くが持家の上に別荘も持つそうです。

 

フィンランドの公営高齢者複合施設(ケアハウス、認知症グループホーム、デイサービス、ショートステイ等)

移住と老後

介護費用も基礎年金だけの人は無料など低所得者は費用がかからない仕組みになっています。老人ホームも費用は高くありません。では、なぜ充実した北欧から日本に帰国されたのか。筆者も米国や豪州の「日本人が入居する老人ホーム」で感じたのですが、どれだけその国の言葉や習慣に馴染んでいても、超高齢期に残るのは母国の言葉と習慣。お話を伺った女性も、周りの外国人高齢者が同様な様子を見て、永住帰国を決心されたそうです。1980年代に国を挙げての「コロンビア計画」という移住政策もありました。実際アジア諸国に移住した高齢者も多いのですが、現在「認知症・介護」問題が発生しています。元気な間の「ロングステイ」は問題なくとも、心身が弱ってからは海外ならではの問題も発生します。高負担高福祉なのか、中負担中(低)福祉なのか、「いいとこどり」だけはできません(苦笑)。

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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。2016年独立。

 


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