表紙のイラストを見た時はちょっと苦手な気がしたのに、読んでみたら森絵都の作品の中でも一番好きかも知れないくらい引き込まれました。物語は1994年から翌1995年1月阪神大震災が起こる2日前の日曜まで。大阪・釜ヶ崎のドヤ街に暮らす青年・礼司が、神戸のホテルチェーン経営者の妻・結子の話を小説にして欲しいと依頼されて書いた作品という形を取っています。頁が進むにつれて「この女」結子のおいたちだけでなく、20代で日雇いの仕事をする境遇に至った礼司の過去や小説依頼の真意が明らかになっていきます。あいりん地区をカジノ街にする計画があり、1995年1月18日にプレス発表が行われるという設定で、残り頁が少なくなるにつれて1月17日が近づく訳で、震災が起きたことを知る読者としてはハラハラ。
松本サリン事件が起きたり、村山内閣が誕生したり、1994年ってそういう年だったんですね。もう25年前になる訳ですが、礼司が書いた小説が15年後に発見される設定ということもあり、古さはさほど感じません。松ちゃんやファンタのおっちゃんなど、釜ヶ崎の住人の描写も魅力的で、2015年に大阪都構想が住民投票で否決された時は松ちゃんたちの暮らしが守られたかのような安堵感がありました。なのに松井知事らはまだ都構想に意欲を燃やしているとか。小説で描かれるカジノ計画は大阪IR構想や大阪万博に通じるもの。古いどころか、今、改めて読み返してみたくなる作品です。(モモ母)