かわらじ先生の国際講座~平和な年に――対話の重要性

2019年の国際情勢はどうなるでしょうか?

年が改まっても様々な問題はリセットされるわけではありません。米中貿易摩擦、米露中の軍拡競争、日韓関係の悪化、不透明な北朝鮮情勢、拉致問題、北方領土問題、中東問題、ロシアとウクライナの対立、欧州におけるEUの行方等々、旧年来の持越し懸案は無数にあります。しかし物事はポジティブに、明るい方向で考えてゆくことも大切です。

明るい展望をもつための根拠はあるのですか?

国際政治の目標は対立をなくすことではありません。歴史も文化も環境も経済力も違う諸国家や諸民族が意見一致することはあり得ません。異なる複数の立場や主張があるのは当然であり、むしろその複数性こそが民主主義の根幹です。問題はその複数の立場による対立をどう調整し緩和するか、です。血を流す事態(すなわち武力衝突)を回避できれば、国際政治では平和と呼んでさしつかえありません。平和とは対立がないことではなく、それを交渉のテーブルに載せることです。

今年も様々な問題で交渉は持続されるのでしょうか?

そう期待します。北朝鮮の金正恩氏が年頭の挨拶の中で、朝鮮半島の非核化に対する決意とアメリカとの交渉への意欲を表明しました。トランプ政権もこれを前向きに受け止めました。これはよい兆候です。わが国もこの1月に日米会談や日露会談を予定しています。また今春早期に日中経済対話も行うことになっています。さらに6月には大阪で20ヵ国・地域(G20)会議が開かれ、日本が議長国を務めます。

具体的な成果は出せるでしょうか?

一筋縄ではゆかないでしょう。しかし各国が交渉のテーブルにつくことが大事です。話し合いが続いている間は信頼関係が成立しているわけですから。米中の「貿易戦争」も見方を変えれば、それだけ両国の経済関係が深まっているということです。アメリカが莫大な赤字を出すほどに中国製品はアメリカに浸透し、もはや両国の経済は、相手なしでは成り立たなくなっているのです。貿易摩擦は相互依存関係の現われでもあります。

米中はライバルであると同時に実はパートナーなのですね。

APECやG20などの国際会議でも米中対立が目立っていますが、その背景には二つの要因があるように思います。一つはAI、サイバー空間、宇宙などを舞台に、新しい産業革命ともいうべき技術革新の時代が到来していること。この新分野における開発をめぐって各国がしのぎを削っていますが、殊に米中がその最前線に立って主導権争いを繰り広げているのです。二つ目は、中国があらゆる面でアメリカに次ぐ世界第二位の位置につき、さらにはアメリカを追い越す勢いを見せていることです。このトレンドは歴史的な趨勢で、止めることはできません。アメリカは何とかトップの座を維持しようと、いろいろな局面で中国をけん制しているものの、早晩、中国とアメリカの順位が入れ替わる時代が来るかもしれません。

かりに順位の入れ替わりが起こるにせよ、いかに平和裡に行われるかが肝心なところですね。

はい。わが国も中国の勢力を封じ込めるのでなく(それは困難です)、中国が世界における責任ある大国として振舞うことを求める必要があります。現に中国は、国連分担金率で日本を追い抜き世界第2位となりました。そしてアジアやアフリカの途上国に対する融資も増やしています。世界大国としての責任を果たす姿勢を示しているといえるでしょう。他方、共産党一党体制下で世界のリーダーが務まるかどうか疑問ですし、軍事強大化を推し進めていることも看過できませんが、それだからこそ中国との政治対話を絶やしてはいけないと感じます。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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