全国学力テスト(全国学力・学修状況調査)は小学校6年生と中学校3年生を対象に実施されます。日本の子どもたちの学力を、データに基づいて把握することは重要です。問題点が見つかれば、それを改善していくような教育政策を打ち出したり、重点的に予算を配分する判断をすることができるためです。
けれどそれを「学力テスト競争」と勘違いしている人もいます。
政令市で最下位だった大阪市の市長が、テスト結果を校長・教員の給与や学校予算に反映させると言い始めました。最下位であったことが、我慢ならない様子です。
twitterにはこんな意見が。
吉村市長 @hiroyoshimura 「学テ最下位であることに僕が納得できる理由がない。教員の意識が変われば結果は出ると思う。」
あなたの意識を変えましょう。公立学校の予算を削って、塾クーポン(毎月1万円)をばらまいて学習塾・スポーツ教室等を潤すのではなく、公立学校に予算を付ければいいのです。
— あおむらさき (@aomurasaki_ll) August 2, 2018
大阪市の児童生徒の家庭環境、生活背景を見てから発言すべき。
市長として根本的な救済もせず、学力向上??
学力向上言う前に、全ての児童生徒が真っ当な生活が営めるようにしようや。先ずは、それが最優先やろ!— 大阪市立学校教員 (@1s_cmb) August 2, 2018
教員叩けば学力が上がると思う浅はかさ。
どうして大阪市の教員採用試験の倍率が下がるのか、どうして講師が見つかりにくくなったのか、一瞬でも本気で考えたことがあるのだろうか。 https://t.co/NTNnroZkfy— 姐さん (@KEIKO207) August 2, 2018
公教育に競争を持ち込むことの弊害については言いたいことは山ほどある。でも、皆さんいってるので、ひとつだけ。この結果、教育を受ける機会が奪われてしまう子が出てくることが怖いです。 https://t.co/sklQuMTtXx
— tfujioka (@Fujiocat) August 3, 2018
吉村市長の支持者からも。
吉村市長を高く評価してきたが今回は駄目。目先の学力テスト に教育現場が流されると方向を誤る。大都市では低学力の子供を切り捨てない限り、点を上げられない。教育困難地区をかかえない田舎は学テ好成績だが、将来性はない。https://t.co/S7Z2DnPgdb @SankeiNews_WESTさんから
— kita (@kita_tanaka) August 3, 2018
個人的に気になるのは、どの報道を見ても「政令市で最下位」という順序ばかりが出てきていて、測定された学力が、「テストに参加した年齢の子どもたちの学力として妥当なもの」であったのかどうかの記述が出てこないところです。妥当であれば何位でも良いのですし、妥当でないなら1位でも良くありません。
また吉村市長の方針については、そのやり方で状況が好転するとは思いません。大阪市の学校教員になろうと思う人はますます減るでしょう。また「学校予算の配分にも反映させる」というのは、テスト結果が低かった学校の予算を削るということでしょう。本来やるべきは、その逆向きであるはずなのですが。
調査結果の概要が国立教育政策研究所のサイトに掲載されています。今回の学力・学修状況調査では、学校運営に関する取組も尋ねているようです。もし大阪の学校の学校運営に問題があるという調査結果が出ていたのなら、市長が学校と教師に対して「怒る」のも少しはわからないでもありません(1つの調査結果を短絡的に鵜呑みにするのは控えた方がよいと思いますが)。けれど今回の件は、子どもたちのテストの点数が「他の政令市より低かった」という点だけを見ての話のようで、幾重にも疑問を感じます。
なお、市長の発表の翌日に林文部科学大臣は、全国学力テストの本来の目的を踏まえて、慎重に考えてほしいという趣旨の発言をしています(上のリンクにあります)。
今回はtwitter上の反応を紹介しました。その後、ある程度まとまった論考なども出てきていますので、来々週にはそちらを紹介しようと思います。
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。