「守る」について

弱いものを守るためなら、武器(棒)使用可

「守る」という言葉がどうにも好きになれないでいた。
なんか偉そうな、自信や力がある人や、お上が使うイメージがある言葉。
学研『漢和大辞典』によると、「守」という字は、手で屋根の下に囲い込んで守るさまを示すらしい。
屋根より大きい手を持つ人が、屋根より小さいものを囲い込む。それが「守る」。

敵チームから自陣を守る

「女・子どもを守るため」。そんな言葉がホームレス排除に使われていると、都内の公園で野宿生活を続けるいちむらみさこさんが、教えてくれた。
女性は守られるべき弱いものとする女性差別。それを口実に、ホームレスを差別・排除する。そんな二重の差別がこの言葉にはあると。
「守る」という言葉の傲慢・危険を改めて思った。
「守るため」に、危険なホームレスは寄せ付けない。
「守るため」なら、ホームレスを殺してもかまわない。
「守るため」なら、ホームレスを殺さねばならない。
100年前、この国の男たちが行った朝鮮人大虐殺に、この言葉は簡単につながっていく。ように思える。
今、パレスチナやウクライナで行われている虐殺にも。

さっき守ってた人が攻めている 「守る」「攻める」は表裏一体!

ホームレス女性の遺したノートを、いちむらさん含む有志のメンバーが書き起こし編集発行した『小山さんノート』。ここには、「女・子どもを守る」という言葉で排除されるホームレス社会にもまた、「女・子どもを守る」というその同じ意識・観念が深く根付いているさまが、赤裸々に描かれる。

明日ぶどうを食べさしてやるよ

それはたとえばこんな言葉で、尻尾を出す。または
「俺が持ってきてやる、買うことはない」。こんな言葉で。
一見優しい、愛がこもった言葉は、女を弱いものとして下に見、手なずけ、囲い込む、「支配」と表裏一体だ。小山さんに食べものや小金を与える一方、このホームレスの男性は、「黙って俺の言うこと聞き勝手な行動するな」。そう言って凄まじい暴力を彼女にふるう。それが「守る」の正体だ。

水害から町を守るために、近所の河川敷ではあらゆる野生生物が(タヌキも棲んでたのに)犠牲になった(葛飾区新中川)

その男性が急死すると、また別の男性が
「タバコ買いなさいと二百五十円手渡してくれた。」「弁当四個置いていった。」
と、小山さんに「与える」ことを始め、過度の干渉・支配へと進んでいく。

オレの頭をかってほしい、金を千円やると言われたが、こればかりはダメとことわった。(中略)オレの言うこと聞けないのか、これからすぐかってほしいとしつこい。こればかりはどんなお金なくてもダメです。もう手に力も入らないと言うと、黙って酒二本をふくろ入れ、怒った調子で去った。

これが「守る」の正体だ。

「守る」は、一見とても勇敢で頼もしく、優しそうな顔をしている。
でも内にも、外にも、「守る」のそばには鬼しかいない。
そして内でも、外でも、その鬼の暴力は弱者に向かう。
だから「守る」はちっとも勇敢じゃない。卑怯者だ。

服を着せて人(主)が犬(従)を寒さから守る

「夜道の一人歩きは危険」「不審者は危険」「精神障害者は危険」「北朝鮮は危険」
「守る」と一緒に、よくそんな言葉も聞かれるけど、危険なのは「守る」の方だ。

年とってもうほとんど何もできなくなった父。最近よくこんなことを口走る。
「こいつ(母)のためにまだ死ねない。こいつは俺がいないと生きていけない」
母を守り続けてきたように思っている父。でも子の私から見て、明らかにそれは一方的な「支配」だった。
私はどうか。
同居する無職(学生)の娘を守ってしまっていないだろうか。
危ない、早く隠遁生活に入らないと!
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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>
『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。

※演劇雑誌「えんぶ」2月号に塔島さんのインタビューが掲載されています。


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