かわらじ先生の国際講座~不穏な朝鮮半島情勢

No Picture今年に入って朝鮮半島情勢が緊迫しているように思われます。1月5日には北朝鮮軍が韓国との軍事境界線付近で約200発の射撃を行うと、韓国軍も対抗措置として直ちに射撃訓練を行いました。1月15~17日、日米韓が合同軍事訓練を行うと、それに対抗し北朝鮮も「水中核兵器システム試験」を実施しました。さらに1月24日、北朝鮮は黄海に向けて巡航ミサイル数発を発射したとのことですが、地理的に考えると、これは韓国を意識したもののようです(『朝日新聞』2024年1月6日、18日、20日、25日)。
米紙『ニューヨーク・タイムズ』(2024年1月25日)の報道によれば、北朝鮮が数ヶ月以内に韓国に対し、重大な軍事行動をとる可能性があると米国政府関係者が警告を発したそうです。

米政府はロシアによるウクライナ軍事侵攻の開始時期もかなり正確に言い当てましたので、今回の報道に不安が募ります。北朝鮮は何を考えているのでしょうか?

昨年は「台湾有事」への懸念が取り沙汰されましたが、今年はそれに加えて「朝鮮有事」という事態にも向き合わねばならなくなりそうです。第2の朝鮮戦争が起こるとまで考えている識者は、わたしの知る限りほとんどいませんが、北朝鮮が対外的に攻撃性を強めているのはたしかです。これは金正恩総書記の指示による北朝鮮の対外路線の転換に起因すると思われます。

No Pictureどう路線が転換されたのですか?

その兆候は昨年の夏以来、わりとはっきり現れていました。たとえば8月以降、金正恩氏は韓国のことを「南朝鮮」ではなく「大韓民国」と正式名称で呼ぶようになっていました。従来北朝鮮は、韓国の人々を同じ民族の同胞とみなし、いずれ朝鮮民族は統一されなくてはならないとする立場をとっていましたが、その立場からの離脱です。つまり韓国を北朝鮮とは何ら特別の関係を有しない国として遇するようになったのです。
そのことが明確になったのは、昨年12月に開催された朝鮮労働党中央委員会拡大総会の場でした。その総会において金正恩総書記は、韓国との関係について、「同族、同質関係ではなく、敵対的な交戦国の関係に完全に固定した」と述べました。さらに米韓が軍事対決に踏み切るなら核使用も辞さずとの姿勢を鮮明にしたのです(『讀賣新聞』2024年1月1日)。
さらに今年1月15日、金氏は最高人民会議で施政演説を行い、憲法を改正し「自主、平和統一、民族大団結」という表現を削除し、韓国を「第1の敵対国」と位置づけるべきだと論じました。

No Picture北朝鮮の韓国に対する対決姿勢はなぜこれほどまでに強まったのでしょう?

一つには金正恩氏の「現実主義」の表れでしょう。朝鮮半島が南北に分断されてから80年近く経ちますが、祖国統一はずっと民族の悲願とされてきました。しかしその統一はあり得ない、別々の2つの国家としてやっていくべきだとの路線に金総書記は切換えたわけです。見方によっては、北朝鮮が韓国を併合するような冒険主義を捨てたとも言えるので、半島情勢のリスク低減と評価できなくもありません。
しかしその厳しい言辞をみると、韓国への敵対意識は明らかですので、平和路線とは真逆だといわなくてはなりません。これは日米との結束を強化し、北朝鮮の孤立化を目指す韓国の尹錫悦政権への対抗措置という面が大きいと思われます。さらには中国とロシア、特にロシアが北朝鮮の味方であるという自信も力となっているのでしょう。

No Picture昨年9月には金正恩総書記がロシアを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行うなど露朝の蜜月関係が喧伝されましたが、その後も両国の友好関係は進展しているのでしょうか?

はい。まずは軍事協力面ですが、北朝鮮からロシアへ大量の兵器が移送されていることがわかっています。米戦略国際問題研究所(CSIS)が衛星写真を分析した結果、大量の武器・弾薬を搭載しているとみられる貨物車輌を確認しました(『朝日新聞』2023年10月9日)。今年1月4日、米政府は北朝鮮がロシアに数十発の弾道ミサイルと発射装置を供与し、ウクライナで使用されたと公表しました(『讀賣新聞』2024年1月6日)。1月22日、国連安保理事会はウクライナ情勢に関する公開会合を開き、米日英韓代表が、ロシアは北朝鮮から弾道ミサイルを入手してウクライナで使用していると非難しました。これに対してロシアのラブロフ外相は肯定も否定もせず、米欧がウクライナへ武器支援していることこそが問題だと反論したそうです(『讀賣新聞』2024年1月24日)。

No Picture近々ロシアのプーチン大統領が北朝鮮を訪問する予定だと聞きましたが、本当ですか?

かなり具体化しているようです。今年1月15~17日、北朝鮮の崔善姫外相一行がモスクワを公式訪問し、16日にはプーチン大統領やラブロフ外相らと会談しましたが、軍事を含めた両国関係の発展とプーチン大統領の訪朝について討議されたものと思われます。報道によれば、ラブロフ外相は朝鮮半島情勢へのロシアの関与に意欲を示した模様です。

なお、ロシアのタス通信によれば、プーチン氏の北朝鮮訪問は3月17日のロシア大統領選挙後になるとの見通しです。朝鮮半島情勢におけるロシアの存在感が増すことによって、今年の極東情勢はいよいよ混迷を深めそうです。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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