昼も夜も虫の声が聞こえるようになりました。近年は温暖化のせいか、秋らしい時期が短くなってきましたが、極力この季節の情趣を味わいたいものですね。
△鷺草の舞い立ちそうな草の中 作好
【評】鷺草は、白鷺が舞うさまに似た花が咲くため、このように命名されました。このままでは単なる季語の説明どまりです。もっと別の視点から詠んでみてください。
△見回せば峡の狭さや法師蝉 作好
【評】峡とは、山と山の間の細く狭まった場所をさす言葉です。狭くて当然です。意外性がないとなかなか詩にはなりません。
△~〇秋蝶やふはりと過る日向道 美春
【評】上五を「や」で切ったら、中七下五は上五とは別のことがらに転じないといけません。この句は上五と中七が連続していますので、「や」で切ってはいけません。「秋蝶がふはり過れり日向道」などとしましょう。
〇一村の色ぬり変へし刈田かな 美春
【評】やや観念的ではありますが、いわんとするところはよくわかります。「田を刈つて村一面が一色に」とする手もありそうです。
△~〇小さき町夜は膨るる風の盆 ひろ
【評】人でいっぱいになったということですね。「小さき町」が説明的ですので、「町の夜は膨るるばかり風の盆」などとするとおもしろいかもしれません。
〇旅人の靴も加はる踊りの輪 ひろ
【評】「靴」に焦点を当てたところがおもしろいですね。けっこうです。
△三川の貫く濃尾豊の秋 恵子
【評】木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)が濃尾平野を貫いていることは、そこに暮す人ならだれでも知っています。既知のことを述べても詩にはなりません。地元民をも驚かす発見がほしいところです。
◎水郷の里を高舞ひ去ぬ燕 恵子
【評】これから帰る燕が名残を惜しんで、里にお別れの挨拶を送っているようですね。
◎アカペラの和声響けり秋の宵 妙好
【評】重厚な美しい歌声を思い浮かべました。季語もよく合っていると思います。
〇逆縁の息子を語る生身魂 妙好
【評】身につまされる句です。
〇晴天や秋明菊の伸びやかに 織美
【評】「伸びやかに」というところが作者らしい捉え方なのでしょう。きれいにまとまっています。
〇別れ際の母は涙や韮の花 織美
【評】「施設の母を訪問」との前書きがあります。余情たっぷりの句ですね。上五の字余りを解消するには「別れ際母涙せり韮の花」とする方法もあります。
△~〇重陽や余生最後の車の来 みさを
【評】9月9日に新車が届いたので、この季語を選んだ由ですが、季語のもつ本情があまり生かされているようには思えません。「秋の風余生最後の車来る」など、いったん9月9日を離れて考え直してみてください。
◎門ごとのぼんぼりやさし風の盆 万亀子
【評】家々にぼんぼりが点っているのですね。やさしい情感の句です。
◎風の盆果ててにはかに川の風 万亀子
【評】句形のしっかり整った、旅情の感じられる作品です。
〇非凡とは遠きてのひら秋の水 徒歩
【評】哲学詩のようななかなか難しい句です。わたしなら「片恋のとほきてのひら」となるでしょうか。徒歩さんの思いが凝縮された句と思いますので、とりあえずこのままの形で残してもよいのではないでしょうか。
〇長子ゆゑ伏したる兵士草の花 徒歩
【評】「伏したる」の解釈が難しいのですが(降伏したということでしょうか)、長子だから戦死するわけにはゆかぬということですね。やや観念的ですが、切なさが伝わってきました。
〇天こ盛るご飯の白さ涼新た 永河
【評】「白さ」に新涼の気分が出ていますね。「天こ盛る」という動詞があるのかどうか。「新涼や白きご飯をてんこ盛」くらいでいかがでしょう。
△~〇噴煙や阿修羅の如く鰯雲 永河
【評】まず「噴煙」と「鰯雲」の取り合わせがどうでしょう。また、「阿修羅の如く」は「鰯雲」にかかるのだと思いますが、実感としてぴんときませんでした。たとえば「噴煙や阿修羅の如き秋落暉」なら何となくわかる気もするのですが……。
〇秋淋し眠れぬままに妣を恋ふ 智代
【評】すなおな句で概ねけっこうです。ただ、「淋し」と「恋ふ」がどこか重複していますので、別の季語にしてもよいかと思います。
〇蛇のやう地に這ひ出づる灸花 智代
【評】なかなかユニークな譬えの句です。俳句では「蛇のごと」としたほうが落ち着くように思います。
〇菊の花飾りしおこわ祝い膳 千代
【評】めでたい句ですね。「菊の花飾りしおこは祝ひ膳」と表記すれば完璧です。
△孫より似顔絵もらひし敬老日 千代
【評】4・8・5の句です。合計すれば17音になりますが、これでは調べがよくありません。「似顔絵を孫描きくれし敬老日」などもう一工夫してください。
〇雷鳴がはんざきの川轟かす 維和子
【評】季重なりですが、雷鳴が主季語でしょう。雷鳴が「轟かす」のはやや平凡でしょうか。「雷鳴がはんざきの川震はする」などもうすこし考えてみてください。
△~〇収穫す修道院の黒葡萄 維和子
【評】収穫するのは当然なので、もう一歩写生を深めたいところです。「一つつまむ修道院の黒葡萄」とするといくらか文学的になるでしょうか。
△蝉の声余命僅かとしきり鳴く 久美
【評】「余命僅か」と作者が言ってはいけません。お涙頂戴式の通俗的な句になってしまいます。「ありたけの声ふりしぼり秋の蟬」など工夫の余地がありそうです。
〇夏疲れ取る施術師や鍼灸院 久美
【評】すなおな句です。毎日こんなふうに、日記のように詠む姿勢が大切です。
△汗しきり未だ(いまだ)夏ぶる九月かな 白き花
【評】「汗」「夏」「九月」と季語が3つもあります。まずは季語を1つにしましょう。
△蓮の実や水底摑む(みなそこつかむ)硬い角 白き花
【評】「硬い角」がわかりませんでした。何かの根でしょうか。爪(ツメ)なら掴むことができますが、角(ツノ)がものを掴めるのでしょうか。
〇母と行く表参道星月夜 翠
【評】なかなか雰囲気のある句です。とりあえず結構でしょう。
△~〇異国めくブティック屋根に蔦紅葉 翠
【評】「異国めく」と言わずにその雰囲気が出せるといいですね。「青山のちさきブティック蔦紅葉」など。
次回は10月3日(火)の掲載となります。前日(2日)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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