「カナリア俳壇」88

一昨日から一泊で愛知県の蒲郡に行ってきました。炎天下を句友たちと歩きましたが、海の色や風の吹き具合に秋の確かな気配を感じました。この暑さももうすこしの辛抱ですね。

△ヤマユリや純白ドレス眩しくて     作好

【評】和名の花は平仮名か漢字を使いましょう。「やまゆり」あるいは「山百合」。純白のドレスに焦点を当てているので、季語は気候などにしたほうがいいでしょう(視点を分散させるのはよくありません)。一例ですが「秋うらら純白ドレス眩しくて」など。

○うたた寝に満開の百合香りくる     作好

【評】とりあえずけっこうです。「満開の百合の香の中うたた寝す」とすると、もうすこしゴージャスな感じが出ます。

○手を合す児との仏間に桃香る     美春

【評】まずまずですが、切れが入るともっとよくなります。俳句は切れが命です。「桃の香や子と仏壇に手を合はす」など。

○熟れとまとかじり飛び散る香りかな     美春

【評】「とまと」は英語「tomato」からきた語ですので、カタカナ表記が一般的です(外来語はカタカナで)。「熟れトマト囓るや香り飛びちらせ」とするとより勢いが増すように思います。

△~○無言蝉網戸を横に歩き去る     ゆき

【評】「無言蟬」が日本語としてこなれていません。いっそ「蟬無言網戸を横に歩き去る」としてはいかがでしょう。

○浄苑は鬼灯の海年一度     ゆき

【評】俳句とは年一度のことを愛でる文芸ですから、「年一度」は言わずもがなです。「鬼灯の海となりたり浄苑は」などご一考ください。

○SFの上巻厚し台風圏     徒歩

【評】面白い取り合せですが、「厚し」だけでは物足りない気がします。「SFの上巻遅々と台風圏」「SFの上巻半ば台風裡」など、もう一工夫できそうです。

○~◎まだ温き薬缶の凹み敗戦日     徒歩

【評】しっかりと「物」によって伝えようとした即物具象句です。このままですと、「凹み」の部分だけがまだ温かいと読めてしまいますが、薬缶全体が温いのでしょう。とすれば「凹みたる薬缶の温み敗戦日」くらいのほうがいいように思いますがどうでしょう。

○~◎花茣蓙の「少年ジャンプ」伏せしまま     妙好

【評】余韻を感じさせる上々の句です。語感の問題ですが、わたしなら「花茣蓙に」とします。どちらがいいでしょう。

○製図板抱へ階段行く九月     妙好

【評】「階段行く」が表現として窮屈です。たとえば「製図板抱へ二階へ九月来る」などとする手もありそうです。

△~○庭先の草取りするや腰痛む     チヅ

【評】俳句は写生が基本。つまり見えるように描かなくてはなりません。「腰痛む」は見えません。「庭先の草取りするや腰さすり」などとしてください。

△うとうとと瞼重しや昼寝時     チヅ

【評】昼寝の時間ですから、うとうとと瞼が重くなるのは当たり前ですね。自分のことを離れ、外部の景色を描くのも一法です。「鉢植の葉つぱだらりと昼寝時」など。

○青竹のそうめん流し孫と食ぶ     千代

【評】夏の楽しい思い出になりそうですね。俳句では「さうめん」と表記します。

△朝散歩汗拭き見上げ虹見つけ     千代

【評】「汗」も「虹」も夏を代表する季語ですので、どちらか1つにしたいもの。「朝散歩汗を拭き拭き雲見上ぐ」など。

△~○夏休み児はリモートで塾授業     織美

【評】まだ対面ではなくリモートでの授業が続いているのですね。報告にとどまり、今一つ感動が伝わってきませんが、形としてはしっかり出来ています。

○昆虫の図鑑リュックに盆の客     織美

【評】意外性があって面白い盆の句です。この「客」は少年でしょうか。宿題の準備もして来たのかもしれませんね。それとも伯父さんが甥のお土産に買ってきてくれたのでしょうか。

◎牛小屋の岩塩くぼむ晩夏光     ひろ

【評】しっかりとした写生句で大変けっこうです。過酷な暑さに耐えている牛の姿も想像されます。

◎爽涼や奈良井の宿の木曽五木       ひろ

【評】こちらもしっかりとした即物具象句。「木曽五木」と季語がマッチしています。

△布袋草けぶるやうなる池の端     白き花

【評】上五と下五の両方が名詞の句を「仏壇俳句」とか「サンドイッチ俳句」とか呼び、よくない形とされます。上五と下五にはさまれた中七が、いったい上五につくのか、それとも下五につくのか、曖昧だからです。つまり、布袋草がけぶっているようなのか、それとも、池の端がけぶっているようなのか、判然としないのです。とりあえず「池端にけぶれるやうに布袋草」としておきます。

△柔らかき無花果受くる柔(やは)き唇(くち)     白き花

【評】「柔らかき」と「柔き」の重複が煩瑣で、句を読みづらくしています。「唇」に「くち」とルビを振るのも気取りが感じられ感心しません。俳句は素直であることが第一です。状況がよくわかりませんが(誰かに口に入れてもらっているのでしょうか)、一案として「無花果を吸へば唇ひんやりと」としておきます。

△~○校庭の野菜熟れ過ぐ夏休み     万亀子

【評】俳句は具体的に詠むことが大切です。季重なりになっても、たとえば「校庭のトマトひび割れ夏休み」などと作ったほうが読者に対して親切です。

○~◎埴輪笑む古墳の丘や蝉しぐれ     万亀子

【評】情景のよくわかる即物具象句です。もし埴輪にスポットを当てるなら、「蟬しぐれ古墳の丘の埴輪笑む」と仕立てるのも手ですね。

○今朝の秋道を違へてウオーキング     恵子

【評】「オ」は小さく表記しましょう。とりあえず形になっていますが、「道を違へて」は作者の事情であって、読者には情景が見えません。ふだんと違う道を歩いた結果、どんな景色が見えたのか伝えてほしい気がします。それから「ウォーキング」を使った句に名句はありません。こんな言葉で俳句の三分の一を使うのはもったいないと思います(実際には「ウォーキング俳句」が世にあふれていますが・・・)。

○子等送りしばしちちろに見澄ます     恵子

【評】「見澄ます」は「耳澄ます」の打ち間違いでしょうか。「耳澄ます」と自分自身の行為を述べる必要はありません。自分ではなく、コオロギのことを客観的に写生してください。「子等送り来て虫の音の高まれり」など。

△夏を追ふ一球一打湧き沈む     永河

【評】まず「夏を追ふ」が抽象的で、俳句にはそぐわない表現と感じます。「湧き沈む」というのは歓声のことでしょうか。ボール自体が湧き沈むことはありませんので。「炎昼の一球一打静まれり」などもう少しご推敲ください。

○盂蘭盆の母にたつぷり水供ふ         永河

【評】堅実な作りの句でけっこうです。ただ、お盆の時期、故人に水をたっぷり供えるという句はほかの人が作っている可能性がありますので、類句チェックが必要ですね。

○~◎炎天にかなへびの眼の虚ろなり     智代

【評】「炎天」も「かなへび」も季語ですが、「炎天」が主季語の句と解しました。虚無的な雰囲気が凄味を感じさせます。「炎天に」の「に」が説明的ですので、上五を「炎天下」とするか、かなへびの目を大写しにし、「かなへびの虚ろな眼炎暑なる」と仕立てる方法もありそうです(この場合「眼」は「まなこ」と読みます)。

○~◎夏の夜は耳朶にパルファンひと雫     智代

【評】「パルファン」は香水のことなのですね。粋で涼しげな句です。「夏の夜は」の「は」が強すぎる気がしますので、「夏の夜の」でどうでしょう。

○夏休み田舎の祖母の五目めし     ゆみ

【評】祖母の家に帰省したときの句ですね。気負いのない素朴な作風でけっこうです。

△~○落蟬の艶を残せる窯の小屋     ゆみ

【評】「残せる」を省略したいところです。また、「艶」はどの部位のことでしょう。とりあえず「落蟬の翅つやつやと窯の小屋」としておきます。

○かなぶんの飛び込む夜の保育室     輪子

【評】暗くなるまで幼い子供を預かっているのですね。すこし窓を開けていたのでしょうか。臨場感のある句です。

△池あらば蜻蛉天国睦み合ふ     輪子

【評】「あらば」は仮定法で、「もしあったとしたら」という意味になりますが、そうすると句意がとれなくなります。「蜻蛉天国」も抽象的でぴんときません。「睦み合」っているのは蜻蛉でしょうか。とすると、止まっているのですね。池のどこに止まっているのでしょう。具体的描写がほしいところです。

○深緑のしじまにおはす諏訪大社

【評】「おはす」は敬語ですので、神様のことですね。しかし、大社自体は建物ですので、それが「おはす」というのはすこし変かもしれません。「深緑のしじまの中に諏訪大社」くらいでいかがでしょう。

△~○七号の野分連れくるうねる海

【評】七号までは言わなくてもいいでしょう。「大海をうねらせ来たる野分かな」としてみました。

次回は9月12日(火)の掲載となります。前日(11日)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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