「ふるさと」になろうよ

入管法の変更が国会で審議されており、4月末に衆議院法務委員会を通過、9日火曜日に本会議も通過しました。この後に参議院での審議が控えています。この法案は一昨年に提出され、世論の反対で廃案になったものが、ほぼそのまま出てきているものです。「この法案を法律にしてしまって本当に良いのか」という問題を考えたいと思います。
思い出したのは、こちらの本です。


著者のナディさんは、6歳の時に両親と一緒にイランから日本に来ました。観光ビザでやってきた非正規滞在者でしたが、当時の日本は好景気で人手不足。非正規滞在の労働者にも寛容で、紆余曲折はあったもののナディさんたち姉弟は日本の学校にも通い、日本の社会で暮らしてきました。
私は、本の中に出てくる学校のエピソードが好きです。小学校高学年になり、イスラム教徒としての自覚が出てきたナディさんは、担任の先生に恐る恐る「体育は(足を露出させる)ブルマではなくジャージで良いですか?」と尋ねると、先生はあっさりと「良いですよ」と返事。それでもクラスメイトから何か言われるかと恐る恐る体育の授業に行くと、「ナディ、ジャージじゃない! カッコイイ!」とクラスメイト達。
こんな風にして日本で育ったナディさん一家は、ある日思い切って、永住権を求めて入管に出頭。認められなければ強制帰国となるため、緊張の日々を過ごしましたが、晴れて永住権が認められました。ナディさんは大人になり、「自分はイラン系日本人だ」と自覚するようになります。それでも非正規滞在者であったことを後ろめたく思ってしまうことがあり、主張していい意見を言うのも躊躇してしまうことがある。そして「ふるさとって呼んでもいいですか?」と問いかけています。
そして現在。ナディさんの小学校時代にはありえなかったようなエピソードがこちら。入管の職員が小学生の子どもに対して、「(両親の出身国に)帰れ、帰らないなら学校で、みんなの前で連れていく」と脅したというのです。


国会で審議されている入管法の変更は、これらの問題をさらに深刻化するもので、こちらにわかりやすくまとまっています。


日本における非正規滞在者への措置については、国連からも改善勧告が出ています。


この記事にあるように、非正規滞在者で帰国を拒んでいる人達は、「帰らない」のではなく「帰れない」のです。ナディさんが日本に来た頃は、日本は非正規滞在者に対して寛容な政策をとっていましたので、「帰らない」人もいたでしょう。しかし現在は(良し悪しは別として)非正規滞在者を全員収容(または仮放免状態に置く)という厳しい措置をとっていますので、帰れる人は帰ります。帰れない人は、帰れば迫害を受ける難民であったり、日本に家族がいたり、日本で生まれ育って日本しか知らない人だったりします。そんな人たちを、強制的に送り返すのでしょうか?
改めて振り返ってみたいのですが、ナディさんが子どもだった頃、非正規滞在の外国人の方に寛容な政策ととっていた日本の社会で、それが原因で、何か問題はあったでしょうか?
非正規滞在者に対して日本が現在行っていること、そして法律を変更してこれからやろうとしていることは、国際基準に則して大変に問題の多いものでもあります。日本で生まれた人も、どこか縁のあったほかの国を「ふるさと」と呼ぶ日がくるかもしれません。私たちもまた、彼女・彼らの「ふるさと」になれる国でありたいと願います。

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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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