関西では、はや桜も満開。この調子では3月中にだいぶ散ってしまいそうです。これも異常気象のせいでしょうか。もっと「春惜しむ」の情緒を味わいたいところです。
○夫婦チョコ五十五年の春迎ふ 作好
【評】「夫婦善哉」というのがありますが、「夫婦チョコ」は作好さんの造語でしょうか。「夫へチョコ」くらいのほうが伝わりやすいように感じます。
△~○漣に光踊りて春立ちぬ 作好
【評】漢字は「躍」でしょうか。「さざなみに躍る光や燕くる」など、もう少し季語に工夫の余地がありそうです。
△~○桜舞う寺の沿道みくじひく 千代
【評】沿道でみくじを引いたように読めますが、「桜舞ふ寺の境内みくじ引く」くらいでいかがでしょう。
○江ノ島の春風浴びて友と旅 千代
【評】素直な作りでけっこうです。気持ちよさがよく伝わってきます。
○流木の厨子に菩薩や深き春 奈知子
【評】流木で作られた逗子なのですね。その逗子自体に注目している句ですので、「菩薩や」の「や」をとりたいところ(「や」があると菩薩に焦点が来てしまいます)。「流木の厨子に御仏春深し」としてみました。
△~○鶯の波間波間に声こぼす 奈知子
【評】「波間波間」ですと鶯が海面に浮かんでいるようです。「鶯のこゑ波音につづきけり」などもう一工夫してください。
△薄風に周し香る沈丁花 美春
【評】「薄風」は造語でしょうか。「周し」はどう読むのでしょう(あまねし?)。とりあえず「そよ風にあまねく香る沈丁花」としておきます。
△~○紅梅のひとひら頬を染むるなり 美春
【評】ひとひらで頬が染まるのでしょうか。「紅梅のひとひら頬をかすめけり」としておきます。
○山は春子抱き地蔵の畦に立つ ゆき
【評】だいたいわかりますが、語順を入れ替え、すっきりさせましょう。「畦に立つ子抱き地蔵や山は春」。
○電線を黄金に染むる春夕焼 ゆき
【評】どこか郷愁をさそう景ですね。けっこうです。
○春風に物言わぬ壺口を利く 白き花
【評】何かの民話が下敷きになっているのでしょうか。「春風に」の「に」が説明調ですので、切れを入れましょう。「もの言はぬ壺口利けり春の風」。
△春眠や夜を鋏で切るごとし 白き花
【評】中七下五が解釈できませんでした。わかる人にはわかる句でしょうか。
△玉の緒や胴吹き枝の初桜 妙好
【評】切れ字「や」から察するに、「玉の緒」に感動した句だと判断しましたが、その「玉の緒」が理解できませんでした。一応ネットで検索してみたのですが…。あまり修辞に頼らず、実直な写生を心掛けてほしいと思います。
△~○雪柳ボール飛び込み噴きこぼる 妙好
【評】ボールが飛び込めば花がこぼれるのは当然ですので、もう少し意外性を追求したいところです。
△~○木のあはい飛び飛びにある春の空 恵子
【評】言葉は美しいのですが、述べられていることは至って常識的です。この木はまだ葉を付けていないのか、それとも葉っぱが出てきているのか、まずはそのへんを具体的に描写してください。「葉桜の中の無数の空さわぐ 篠原梵」のような名句にひけをとらない力作を期待します。
○春闌くや石置屋根に草伸びる 恵子
【評】情景がよく見えてきました。のどかな気持ちにしてくれる作品です。「草伸びる」から晩春であることは想像がつきますので、もっとよい季語があるかもしれません。
○大腸をまさぐるカメラ春さむし のぶ
【評】大腸の検査をされたのですね。ご自身の生活の記録として残してほしい句です。
○~◎鉱物をみがく少女や春うらら のぶ
【評】上五中七が大変けっこうです。小学校か中学の理科クラブに属している少女を想像しました(ちなみに私も小学生のころ、理科クラブでした)。「春うらら」は季語として定着しているので、このままで問題ありませんが、「春」も「うらら」も春の季語ですので、重複をきらう俳人は、この季語を使いません。趣味の問題ですが、私もこの季語は使わないようにしています。
○居眠りの指が動けり兼好忌 徒歩
【評】情景もどこかユーモラスですし、季語も意外性があります。ただ、本人のことだとすると、居眠りをしているのになぜ指が動いたことがわかるのか疑問をもちました。
△~○ふらここに座れば少し若返る 徒歩
【評】これがエッセイの書き出しならば上々ですが、俳句としてはどうでしょう。「少し若返る」と感じたところが俳句のスタート地点で、その若返った心で描いた世界が俳句なのではないでしょうか。
○塩の道守る古刹の梅真白 万亀子
【評】切れがないため、散文の切れ端のようになっているのが惜しまれます。「塩の道守る古刹や梅真白」とするだけで、ずいぶんと張りが出てくるように思います。
△~○代々の歴史取り出し雛飾る 万亀子
【評】「歴史取り出し」がよくわかりせん。代々の「記録取り出し」でしょうか。
△~○朽ち果てし屋根のカンバス落椿 智代
【評】「朽ち果てし…カンバス」というのはへんです。「朽ち果てし母屋の屋根に落椿」など、「カンバス」という比喩を使わずに表現してみてください。
○~◎店棚に目移りすれど桜餅 智代
【評】実感のこもった句です。ほのかなユーモアも感じられます。
○蹲踞に蕾の開く春日かな 多喜
【評】形としてはきちんと出来た句ですが、何の蕾か気になるところです。季語を「春日」とせず、春の季語となる具体的な植物名を入れて仕立てるのも一法でしょうか。
○花屑をよけて遅足になりにけり 多喜
【評】なかなか面白い句です。きたないから避けるのでなく、桜の花びらを踏むことが何か罰当たりな気持ちになるのでしょうね。
△~○年毎に蕾ふえたり辛夷咲く 織美
【評】「年毎に」だと一般論になってしまいますので、「今年また」としましょう。「今年また辛夷の蕾ふえにけり」とすれば、さらにすっきりしそうです。
○~◎旅の留守春だいこんの倍に伸ぶ 織美
【評】旅行中、特に世話をしなくても大根は成長するのですね。驚きがよく出ていますし、何より明るい作風が春らしくてけっこうです。
○~◎ほつこりと物芽の出づる夫の畑 チヅ
【評】大らかなよい句です。しっかり畑の世話をしているご主人へ親愛の情も感じられます。
○~◎内裏雛いたづらつ児の向き合はす チヅ
【評】心楽しくなる句。童謡でも「お内裏様とおひな様、二人ならんですまし顔」と歌われていますが、本当は雛人形も向き合いたいのかもしれませんね。
○~◎犬連れて家族五人の花見かな 永河
【評】愛犬を入れての家族五人なのかもしれませんね。このようなカジュアルな花見の句もいいものです。
○マイアミの歓声乗せて花便 永河
【評】従来ですと「花便」といえばもっぱら手紙でしたが、昨今は映像(動画)でメッセージが送られてくることも珍しくなくなりました。この句の「花便」もそれなのでしょう。「マイアミ」がユニークです。
◎黄砂来る浪花の寄席のふれ太鼓 あみか
【評】「黄砂」から「浪花」への飛躍がユニーク。スケールが大きく、しかも明るくて景気のよい句です。
〇やんはりと釘刺されをり花筵 あみか
【評】花筵がずれないよう本当に釘が刺されていたのでしょう。しかし、さりげなく咎められたという意味合いも含まれていそうですね。つい深読みをしたくなる作品です。
△~〇咲きてすぐ散り染むるかな春の雨 久美
【評】「散り染むる」は「散り初むる」の打ち間違いでしょうか。「咲きてすぐ散り初むる花一雨に」など、「春の雨」でなく「桜(花)」の句にされてはいかがでしょう。
〇~◎板前の鉢巻ききりり春の宴 久美
【評】威勢のよい、そしていなせな板前の姿が見えてきました。「鉢巻き」の送り仮名は省き、「鉢巻」としましょう。
次回は4月18日(火)に掲載の予定です。前日17日(月)の18時までにご投句頂ければ幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。