「カナリア俳壇」80

 先日、句友21名と一泊で伊豆地方を吟行してきました。河津桜が満開で、一足早く春を満喫してきました。ようやく外出が楽しくなる陽気になりましたね。

△梅咲いた観る人あって里になる     作好
【評】今回は口語俳句に挑戦したのですね。中七下五が理屈といいますか、作者の主張になっていて今一つ詩情が感じ取れません。たとえば「またひとり里人へって梅咲いた」のように物語性のある作り方にすれば、少し詩に近づくことができるかもしれません。

△~○鏡餅パック開けばつるスッピン     作好
【評】この句を読むと坪内稔典さんの「枇杷食べてきみとつるりんしたいなあ」「春の風ルンルンけんけんあんぽんたん」「三月の甘納豆のうふふふふ」などを思い浮かべます。つまりオノマトペを多用した稔典調の二番煎じのような気がしてしまうのです。現代口語俳句は個性が勝負で、池田澄子さんの「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの」「ピーマン切って中を明るくしてあげた」などの澄子調といわれる作風、あるいは神野紗希さんならではの「起立礼着席青葉風過ぎた」「寂しいと言い私を蔦にせよ」といった青春俳句等々、よほどオリジナリティーのある調べを発見しないと、評価されません。作好さんがどれだけ独創的な表現を見出せるのか、今後に期待したいと思います。

△~○早春や烏跳ね行くスキップで     ゆき
【評】「跳ね行く」ことを英語で「スキップ」と言いますので、表現が重複しています。「早春の烏スキップしてゐたり」など推敲してみてください。

△束に咲く福寿草あり歩み止む     ゆき
【評】「あり」は不要ですし、「歩み止む」も要りません。そもそも俳句とは歩みを止め、じっくり物を見る文芸です。歩みを止め、「束に咲く福寿草」を見た結果、どんな発見があったのかを具体的に描いてください。「ふつくらと束に咲きをり福寿草」など。

○愛犬の背にひとときの春日かな     美春
【評】おおむね結構ですが、飼い犬を自分で「愛犬」と言ってしまうと、やや句が甘くなります。「老犬の背にひとときの春日差」くらいでいかがでしょう。

△~〇庭畑の風に誘はる花菜かな     美春
【評】「庭畑の風」ではなく、「庭畑の花菜」では?「庭畑の菜の花風と遊びをり」としてみました。

○~◎尼寺の木蓮の白ふくらめリ     ひろ
【評】清楚な美しい句です。語順を入れ替え、固有名詞を用いて、「木蓮の白ふくらめり観音寺」のように仕立てるのも一法かもしれません。

△~○船降りる遍路が会釈して行けり     ひろ
【評】遍路はどこで、だれに向かって会釈したのでしょう。とりあえず「船降りて海に辞儀せし遍路かな」としておきます。

○築城の刻印石や風光る     恵子
【評】句形も引き締まり、季語も鮮烈でけっこうです。あと一つ具体的なものがあると景がより鮮明に見えてくるように感じました。「城壁に丸の刻印風光る」など。

○天守へと枝先伸ばす桜の芽     恵子
【評】「枝先」と「桜の芽」にすこし重複感をおぼえます。とりあえず「天守へと桜こぞりて芽吹きけり」としてみました。

○春の星テントサウナの仄明り     妙好
【評】この季語だと星明りも見えますので、テントサウナの「仄明り」と重複してしまいます。「春星やテントサウナに子が独り」などもう一工夫してください。

○~◎マスク紐ピアスイヤホン花ざかり     妙好
【評】マスク紐もいまやファッションアイテムの一つなのですね。ウィットに富み、華やぎの感じられる春らしい句です。

○次々と地球へ着地藪椿     白き花
【評】藪椿を宇宙からの落下物ととらえたのですね。おもしろい趣向です。正木ゆう子さんの代表句「水の地球すこしはなれて春の月」へのオマージュも込め、「つぎつぎと水の地球へ落椿」としてみたくなりました。

△歩道橋選んでくさめ目が眩む     白き花
【評】「花粉症」(これは春の季語)のことを言いたいのだと思いますが、「くさめ」では冬の句になってしまいます。目が眩むほどのやりきれなさをどう表現したらいいか。「花粉症歩道橋より天仰ぐ」「太陽がここもいつぱい花粉症」などもう一工夫してみましょう。後者は言うまでもなくアラン・ドロンへのオマージュです。

○~◎涅槃会やシャンシャン見むと長き列     織美
【評】「シャンシャン」というのは修行僧が錫杖を鳴らしているのですね。中七で軽く切れを入れて読むならば、「涅槃会のシャンシャン見むと長き列」とする手もあります。原句とどちらがよいでしょう。

○鳥遊ぶ枝の弾みや梅日和     織美
【評】まさに梅日和の景ですね。上五をより具体的にして、「雀来て枝よく弾む梅日和」とする方法もありそうです。

○~◎麦を踏むスラブの大地思ひつつ     徒歩
【評】ウクライナ戦争に胸を痛めての作ですね。「麦踏んでスラブの大地思ひけり」とするともうすこし調べがなめらかになるかもしれません。

○~◎おしぼりをきれいに畳む春愁     徒歩
【評】感覚的でユニークな作品です。この中七ですと、「おしぼりをきれいに畳む日永かな」といった形のほうがすっきりする気がします。下五に「春愁」を置くのであれば、たとえば「真四角に畳むおしぼり春愁」という仕立て方のほうが落ち着くかもしれません。「真四角に畳む布巾や春愁」のほうがより生活感と哀愁が出そうです。

○東風吹くや結びし髪が頬に触れ     千代
【評】抒情的でいい雰囲気なのですが、「吹く」「結びし」「触れ」と動詞が3つもあると句がやや重くなります。その気になれば、一つも動詞を使わず「強東風や一つ結びの髪頬へ」とする手もありますが、「朝東風や結びたる髪頬に触れ」としておきましょう。「が」のように強い音の助詞を省くのもテクニックです。

△~○庭の隅蕾み膨らむ桜草     千代
【評】正確なスケッチですが、もうすこし胸をときめかせる表現を探求したいところです。「庭の隅」はカットし、とりあえず「明日は咲くほどの蕾に桜草」としておきます。

△~○春暁の水平線に金の帯     茉奈
【評】この形では水平線と金の帯が分離しているので、一体化させましょう。「春暁の水平線は金色に」。ただ、こうした光景は昔から観察されていて、新味にとぼしい気がします。

○たらい風呂より春光の伊豆の島     茉奈
【評】日が昇るころ、露天湯に浸かりながら伊豆諸島を眺めたのですね。季語に悩みますが、とりあえず調べを整え、「きさらぎの伊豆の島見ゆたらひ風呂」としておきます。

○晴天にシュプール描く孫二人     久美
【評】気持ちのよい句です。「晴天に」の「に」が曖昧です。「孫二人描くシュプール日本晴れ」とするか、「孫二人描くシュプール螺旋めく」なんてのも面白そうです。

△~○ベソかきつ抱かれ降りるゲレンデや     久美
【評】「かきつ」「抱かれ」「降りる」と動詞が続き、ちょっとうるさい句になっています。「泣き虫が抱かれゲレンデ降りて来し」としておきます。

○待たされて沈丁の香のいや増せり     あみか
【評】「待たされて」から作者のイライラ感が伝わってきますので、そのへんをもうすこし穏便にしましょう。「沈丁のいや増す匂ひ待ち惚け」など。

△~○沈丁花かろき頭痛の治りそめ     あみか
【評】作者の体調の報告にとどまり、読み手としては鑑賞の余地があまりないように思われます。添削というよりも別の句になってしまいますが、「沈丁や宵の頭痛は母ゆづり」と考えてみました。

○天網に呼びかけてゐる雲雀かな     永河
【評】天網とは「悪人や悪事をのがさないように、天が張りめぐらした網」。それに「呼びかけてゐる」雲雀。哲学詩のようでもありますが、解釈しきれませんでした。萩原朔太郎に「雲雀料理」という詩があるのを思い出したので、わたしも「天界の皿より落ちし雲雀かな」と作ってみました。

○春耕の土に跳ねゐる石たたき   永河
【評】「石たたき」は秋の季語ですが、この場合は「春耕」の句であることが明らかですので、この季重なりは問題ありません。素直な写生句でけっこうです。石たたきの快活さを出すなら、「春耕の先へ先へと石たたき」など、もう一工夫することもできそうです。

△~○翅閉ぢてにほひ包みし小灰蝶     智代
【評】これは成虫のまま越冬できるウラギンシジミなのですね。繊細な句ですが、まず何の匂いを包んでいるのか不明です。また、翅を閉じることは包むことなのか(むしろ挟むことでは?)という問題もありそうです。別の句になりますが、「翅閉ぢて夜気に包まる小灰蝶」と考えてみました。

○詰襟の濡れて銀鼠春の雨     智代
【評】詰襟ですから男子の学生服ですね。学生服といえば黒を連想しますが、私立校なら銀鼠のもありそうです。しっとりとした季語がいいですね。

次回は3月28日(火)に掲載予定です。前日27日の午後6時までにご投句頂ければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。

 


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