「カナリア俳壇」82

桜の花が散ってしまったと思ったら、ハナミズキが満開で、紅白のツツジも街を彩っています。やや天候が不安定ですが、吟行に出かけたくなる季節ですね。この春はわたしも意識的に植物を詠むよう心がけています。

◎木蓮の香り残せし上着干す     作好

【評】どんなすてきな場所を歩いてきたのでしょう。生活のなかのささやかな出来事(感覚で捉えた世界)を詩に昇華できるのが俳句の魅力ですね。

○~◎不揃いに土筆出でたる通学路     作好

【評】「通学路」ですから、土筆と学童たちが対比されているのですね。都市部でなく自然豊かな学区なのでしょう。歴史的仮名遣いなら「不揃ひ」。

○丸まりて九十三歳草毟る     由実

【評】「丸まりて」に愛嬌があって、やや失礼を顧みずにいえば、可愛いおばあちゃんが見えてきました。お誕生日にプレゼントしてあげたい句です。

◎ななめがけバック春からこぶた組     由実

【評】斜めがけの鞄ですから保育園児なのでしょう。それは「こぶた組」からもわかります。初々しくて、心楽しくなる句です。鞄は「バッグ」などと野暮なことはいいません。慣用表現としての「バック」のほうが気取りがなくていいですね。

○春の野にサルサを踊る異邦人     恵子

【評】サルサを踊っているのは中南米の人々でしょうか。「春の野」の伸びやかさがいい感じです。中七に切れを入れ、「サルサ踊れり」としましょう。

○外つ国の人も乾杯花万朶     恵子

【評】お花見の場面ですね。「外つ国」というおっとりとした表現がどこかユーモラスで、雅でもあります。

△~○肩車しやぼん玉追ふ父子かな     美春

【評】「肩車」と「父子」はワンセットですので、切り離さないほうがいいでしょう。「しやぼん玉追へる父と子肩車」くらいでいかがでしょう。

◎かくれんぼ児ひとり分のつつじかな     美春

【評】目の付け所がいいですね。小さなつつじの茂みの陰に隠れている幼子が思い浮かびました。

○真青なる春のひと日や恵那の郷     ゆき

【評】「真青なる」は空だけのことではないのですね。春そのものが真っ青というのは詩的です。まさに恵那賛歌ですね。

△~○放流の春水垂るる衣のごと     ゆき

【評】「春水」は春の川や湖のことを指します。たぶん放流のためにバケツの水を春の川に流したのでしょう。「放流の水衣(絹?)のごと春水へ」でどうでしょう。

△~○土筆摘む夫の好みの卵とじ     ひろ

【評】〈上五〉と〈中七・下五〉が分断されてしまっていますので、もうすこし自然な流れにしたいところです。「つくしんぼ摘んで夫に卵とぢ」としておきます(この場合「夫」は「おっと」と読みます)。

○朝市の方言やさし花菜漬け     ひろ

【評】すなおな作りの句でけっこうです。できれば、どこの方言かわかるとさらによくなりそうです。前書に地名を入れるのも手でしょうか。

○筍を子守するごと抱(いだ)きけり     白き花

【評】概ねけっこうです。「筍を抱(いだ)けり子守するごとく」とすれば、句の印象がさらに鮮明になるように思います。

△種々にまみれて光るチューリップ     白き花

【評】「種々」は「くさぐさ」と読めばいいでしょうか。いろいろなものにまみれている、ということは花びらが地面に散っている情景かと思いますが、どうして光っているのか、もうすこし丁寧な写生が必要でしょう。

◎ツーリングバイク風切る今朝の夏     妙好

【評】バイクに乗っている人の気持ちになって作った句ですね。まさに立夏を思わせる気持ちの良い句です。

○霾れり荒地を駆くる騎馬の裔     妙好

【評】シルクロードの茫漠とした景を思い浮かべました。旅行の回想でしょうか。何か前書があるといいですね。

○水満々桶の楮に春日さす     智代

【評】「桶の楮」ですので、和紙の原料を水洗いしている場面でしょうか。上五で切れてしまうのが少々気になります。「水満々の」にすると字余りですので、「水満てる桶の楮に春日さす」としてみました。

△~○よく見れば万と蠢く蛙の子     智代

【評】俳句とは物を「よく見」て作るものですので、上五は不要です。それより、どんな場所でこの光景を目にしたのか知りたいと思います。一万匹もいるのですから、よほど大きな場所かと想像します。

◎千の手を暗きに広ぐ御開帳     徒歩

【評】千手観音のご開帳ですね。「暗きに広ぐ」がこの句に深みをもたらしています。

○~◎手を浸けて心地よき川伊勢参     徒歩

【評】ふつうなら「心地よき」をもう少し深く写生してくださいというところですが、この句は挨拶句です。伊勢に対する挨拶の心が素直に表現されています。

○露天湯に浮くひとひらや花の宿     織美

【評】「や」という強い切れ字を使うと「ひとひら」と「花」のつながりも切れてしまいますので、「露天湯にひとひら浮かせ花の宿」くらいでどうでしょう。

○二人居に児の笑ひ声春休み     織美

【評】春休みに子供が泊りに来てくれたのですね。喜びが素直に表れた句です。

◎若草や光り織りなす鳩の首     永河

【評】鳩の首のあの光沢を織物のように感じたのですね。斬新な把握です。季語と相まって春ならではの耀きが伝わってきました。

△~○大空になびかせたいよ蓮華草     永河

【評】口語調の俳句ですね。童心を伝えるにはぴったりの表現法と思います。ただ、蓮華草になびくというイメージがふさわしいかどうか、一考の余地がありそうです。しかも場所が「大空」ですので、なびかせるなら、もっと大きくて長い物のほうがいいように感じました。

△水ぬるむ子らも手伝い苗代用意     千代

【評】「水ぬるむ」も「苗代」も春の代表的な季語ですので、この季重なりはよくありません。「苗代を作る子供ら泥だらけ」などもう一工夫してみてください。

○立ち並び待つ鎌倉のシラス丼     千代

【評】店の外にまで長い行列ができているのでしょう。鎌倉にシラス丼の名店があるのですね。

△~○ぺんぺん草耳元に鳴る廓跡     曜子

【評】もうすこし伝わりやすくすれば、「廓跡ぺんぺん草を鳴らしみる」でしょうか。

○潮濡れの若布山積み箱ぐるま     曜子

【評】「箱ぐるま」がユニークです。こんなふうにして採れたての若布を運ぶのですね。前書に地名を入れておくといいかもしれません。

○春風や水辺に亀がのつそりと     チヅ

【評】目にした景を素直に詠んだ句でけっこうです。長閑さが伝わってきます。

△~○天城越え山葵ソフトの辛みと香     チヅ

【評】「ソフト」でなく「山葵」が季語ですね。この上五だと、ソフトクリームを食べながら天城越えをしているようですので、上五を「天城山」としてはいかがでしょう。

○朧なるテールライトや最終便     あみか

【評】乗物のことにうといので、最終便にふさわしい、テールライトを点した乗物とは何か悩みました。とりあえず船を連想しましたがいかがでしょう。「朧」のイメージから、未来への漠然とした不安も感じ取りました。

○~◎からつぽの電話ボックス朧の夜     あみか

【評】虚無感が伝わってきます。電話ボックスがどこかレトロな雰囲気ですね。

○肉球のピンクの仔猫もらひ来る     音羽

【評】可愛らしい句です。ただ、猫の肉球はたいがいピンク色では?とすると、詩に必要な意外性はありませんね。

△リックに防犯ベル結ひ入学す     音羽

【評】4・8・5の破調が気になりました。調べが悪く読みづらいのです。とりあえず「防犯のベルをリュックに入学す」としておきます。

○春時雨味噌大桶の香のほのと     万亀子

【評】鋭敏な感覚の句です。この「香」は味噌の匂いでしょうか。それとも木桶の木の匂いでしょうか。「新調の味噌桶の香や春時雨」ですと、木の匂いであることがはっきりしそうです。

◎大桶に眠る味噌玉春深し     万亀子

【評】老舗の味噌蔵を見学されたのでしょうか。ずっしりとして風格を感じさせる句です。

次回は5月9日(火)の掲載となります。6日が立夏ですから、もう初夏になるわけですね。8日(月)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。
河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。

 


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