「カナリア俳壇」61

「待春」という季語が口をついて出るような厳しい寒さが続いていますが、コロナ禍もあと少しの辛抱と信じたいですね。皆さんの旺盛な創作意欲から力をもらっています。

○朝の陽や豊作の柚子ジャムにする     千代子

【評】柚子の煌めきまで見えてくる、明るく快活な句です。けっこうです。

△~○友にだす葉書漉きたる小半日     千代子

【評】こんな葉書を受取ったらきっと感動することでしょうね。「紙漉」はあくまで職業に対して使われる季語ですので、このようなプライベートな行為は季語と認めにくいように思います。「友にだす葉書漉きたり寒日和」「友にだす賀状漉きたり小半日」など、何か季語を入れてはいかがでしょうか。

○目の前の熊の鼻いき富士サファリ     久美子

【評】山でこんな事態に陥ったら大変ですが、下五をみて安堵しました。どこかユーモラスな句ですね。

○浜名湖の電車に乱舞ゆりかもめ     久美子

【評】迫力のある情景です。ゆりかもめは電車を恐れないのですね。

△~○児が置けば笑い弾くる福笑      ゆう

【評】何を置いたのか(目か鼻か)、だれが笑ったのかなど、もう少し具体的な描写があるとなおよいと思いますが、素直な句でまずまずといったところでしょうか。歴史的仮名遣いでは「笑ひ」となります。

△園庭に児らの足跡雪の朝     ゆう

【評】足跡だけがあるとするなら、園児が帰宅したあとの夕方の景のほうがふさわしいような気がしました。子供らが登園している朝ならば、足跡ではなく、今まさに雪の上をとび跳ねている園児たちを描いたほうがいいように感じます。

○指先の疵を氷柱で拭ひけり     徒歩

【評】不思議な味わいの句です。「拭ふ」ですと拭き取る感じですので、氷柱であれば傷口を洗うのに用いたほうが自然な気もしました。「指先の傷口すすぐ氷柱もて」など。

△~○老松の傾ぎにふくら雀かな     徒歩

【評】これが日本画ならば風格を感じさせるところですが、「傾ぎ」が漠然としていますので、もう少し細部を描写したほうがよさそうに感じました。

○言祝ぎを主治医と交はす室の花     恵子

【評】前書に「お正月明けの受診」とあります。ですからこの「言祝ぎ」は新年の挨拶ですね。前書なしでそうだとわかるように作ってみましょう。一例ですが「向ひ合ふ主治医と交はす御慶かな」としてみました。「室の花」を生かすならば、この「言祝ぎ」を御慶ではなく、「もう快癒しましたよ。おめでとう」といった祝いの言葉にして、「主治医より受くる祝福室の花」などと仕立てることもできそうですね。

△枝蹴つて小鳥飛び立つしずり雪     恵子

【評】「枝」と「しづり雪」はワンセットですので、あまり離してはいけません。「鷺飛んで弾む枝よりしづり雪」など、もう少し推敲してみてください。

△冬ざれの山家跡地に蔓まとふ     美春

【評】「跡地」ということは、家は取り壊され、更地になっているのでしょうか。とすると「蔓まとふ」の「まとふ」をどう解してよいかわかりません。「冬ざれ」と言わずとも、この光景自体が荒涼としていますので、季語には別の言葉を選びましょう。たとえば「玄冬の山家跡地に蔓這へり」など。

○霜枯や足跡つづく山の畑     美春

【評】大体けっこうですが、「つづく」が少し気になります。山の道であれば、どこまでも足跡が続いても不自然ではありませんが、平地に比べ山の畑は狭いはずですので、「つづく」というイメージがありません。「足跡しるき山の畑」でどうでしょう。

○粉雪の薄く積もりて千秋楽     ゆき

【評】おもしろい取り合わせの句ですね。もう少し言葉に張りをもたせたいところです。「うつすらと粉雪積もり千秋楽」など。

○初場所や拍子木の音澄み渡り         ゆき

【評】作者ならではの発見という点ではやや弱いものの、俳句としてはしっかりとできています。

△~○白菜や畝に終ひの一つ切る     多喜

【評】「や」で切ってしまわず、一物仕立ての句にしましょう。「白菜の終ひの一つ我が穫る」など。

△~○大寒のひねもす雲を見ぬ日かな     多喜

【評】「見ぬ日」は口語なら「見ない日」ということになりますので、その日は全く雲がなかったのですね。では「雲一つなき大寒となりにけり」でどうでしょう。

△~○窓ガラス凍り付く花束ねたし     白き花

【評】窓ガラスの水滴が凍って花のように見えたのですね。それを束ねてみたいという部分はカットし、「咲き競ふやうな氷やガラス窓」としてみました。

△川霧を写し撮りてや桃源郷     白き花

【評】川霧をスマホで撮ったら桃源郷のように写ったということでしょうか。「写し撮りてや」が日本語表現としてどうでしょう。まったく別の句になりますが「川霧の向うに天女ゐはせぬか」という願望俳句を作ってみました。

○闇伝ふ雪折れ竹の裂くる音     妙好

【評】神秘的な景ですね。「闇伝ふ」がやや曖昧に感じました。「ここかしこ雪折れ竹の裂くる音」など、雪や竹が見える句に仕立ててはいかがでしょう。「闇」では景色が見えてきませんので。

△~○反故棄つるファイルまつさら春隣     妙好

【評】なんとなく意味はわかるのですが、反故というより古い書類ですね。「みな捨てしファイルの書類春近し」と考えてみましたが、証拠隠滅の場面みたいですか、、、。

○寒灯や古き文庫の字の小さし     マユミ

【評】感動のポイントは「寒灯」ではなく、古い文庫本の文字の小ささにありますので、順序を入れ替えましょう。「文字ちさき昔の文庫冬灯」くらいでどうでしょうか。

○野兎の俄かに出づるくぐり岩     マユミ

【評】「くぐり岩」がよくわかりませんが、なかなか面白い句です。「くぐり岩より野兎の飛び出せり」としたほうが躍動感が出るかもしれません。

△~○春隣川を見下す露天風呂     慶喜

【評】「春隣」がとってつけたようで、あまり効いていません。「雪しろを眼下に眺め露天風呂」としてみました。

△~○朝日さす塀の根元に菫草     慶喜

【評】なんとなく漠然としていますが、とりあえず形としては俳句になっています。

○御嶽を見んと北窓開きけり     音羽

【評】きちんとできてはいますが、やや理屈っぽい句に思えます。「北窓を開き御嶽眩しめり」など、もう少し素直に詠んでみてはいかがでしょう。

○~◎啓蟄や地下ギャラリーへ階下る     音羽

【評】季語と「地下」がつかず離れずで、面白みのある句です。「地下」ですので「下る」は自明ですね。たとえば「啓蟄や地下画廊への螺旋階」などとする手もありそうです。

○夕時雨ウーバーイーツ駆け抜くる     万亀子

【評】いずれは同種の句がたくさん作られ「ウーバーイーツ」という語も陳腐化するのでしょうが、今のところはまだ鮮度を保っていますね。上手な街風景のスケッチです。

○一色の青あれば済む冬の空     万亀子

【評】絵心をもって眺めた冬青空の様子ですね。濃淡のない、単調なほど真っ青な空を思い浮かべました。

○太閤の産井の屋根や初鴉     ひろ

【評】きちっと作られた堅実な写生句ですが、「屋根や」としてしまうと、屋根そのものに感動した句になってしまいます。また、これでは鴉がどこにいるのかもわかりません。「屋根に」でどうでしょう。

△~○寒垢離や僧の姿に手を合わす     ひろ

【評】「寒垢離や」と「や」で大きく切ってしまうと、寒垢離と僧の直接的な関係性がなくなってしまいます。「寒垢離の」としましょう。また、「合わす」ではなく「合はす」です。

○潦軽く飛び越え春近し     あみか

【評】きちんと出来ていますが、もう少し軽快感がほしい気もします。潦(にわたずみ)は水たまりと違い、道などに水が流れている箇所ですので、それが小川のように蛇行している様子をイメージして、「ジグザグに越す潦春近し」などと考えてみました。

△~○立ちかぬるエンドロールや街は雪     あみか

【評】「立ちかぬる」がややもたつく感じですし、「エンドロールや」としますと感動のポイントはエンドロールに来てしまいます。もう少しお洒落な句に仕立てたいところです。一案として「街は雪エンドロールを仕舞ひまで」としてみました。

○大一番炬燵と四つの父の背ナ     智代

【評】テレビで相撲中継を見ながら、炬燵を離れないお父さんの姿をユーモラスに描いたのですね。「炬燵と四つ」は面白すぎかも。「大相撲父は炬燵に前のめり」くらいでいかがでしょう。

○~◎金継ぎの碗の一服春近し     智代

【評】すっきりとして典雅な句です。「碗で」のほうが自然かもしれません。

△~○ジャズ聴けば心解るる冬の夜半     糸子

【評】「心解るる」は目に見えません。つまり観念です。もし自分が舞台俳優なら、この「心解るる」をどう身体表現するでしょう。それをスケッチすればいいのです。たとえば「ジャズ聴きて身体前後に冬の夜半」など。

△~○錆付きし父の小鎌や大地凍つ     糸子

【評】この小鎌はどこにあるのでしょう。大地に放置されているのでしょうか。「錆つきし父の小鎌に霜降れり」など、取り合わせでなく一物仕立ての句にしたほうが印象が鮮明になるように思います。

○左義長や火花が焔を奮はせる     永河

【評】火花が焔を奮い立たせるという見方がユニークですね。「焔」を「ほのお」と読ませると中七が字余りになります。また、上五が文語調、中七・下五が口語調なのもアンバランスですので、「左義長の火花焔を奮はする」とするのも手でしょうか。

○風花やあんころ餅を買うてくる      永河

【評】「買うてくる」ですと、もう家に戻ってしまった印象を受けますので、戸外の景である「風花」が活きません。店頭であんころ餅を買っている場面にして、「風花やあんころ餅をふたり分」などとする方法もありそうです。

○初春に力士の暦夫の部屋     織美

【評】どうせなら「新曆」または「初曆」という新年の季語を使って詠んでみましょう。「夫が吊る力士尽しの新曆」「初曆めくれば力士夫の部屋」など工夫できそうです。

○縄跳びの特訓する児冬日向     織美

【評】溌剌として気持ちのよい句です。「縄跳」は冬の季語になっていますが、季重なりで使われるケースも多いので、このままでけっこうと思います。

次回は2月22日(火)に掲載の予定です。前日21日の午後6時までにご投句いただければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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