「カナリア俳壇」62

毎日寒い日が続き、なかなか春が実感できませんが、あちこちで梅も咲き始めています。コロナ禍は予断を許しませんが、一人吟行をして春の息吹を感じたいこの頃です。

△冬田道湯船に浸かる夕陽かな     白き花

【評】メルヘンを思わせる句ですね。「湯船に浸かる」は湖水等に沈みゆく太陽の比喩かと思われますが、俳句はあくまで即物具象の文芸。ファンタジーではなく徹底したリアリズムの先に驚きを見出すのが身上です。「冬田道赤き夕日を手の上に」など。

〇大根の頭を土に還すなり     白き花

【評】切り取った大根の頭を(肥料として?)土に埋めたのでしょう。「土に還すなり」が詩的な表現ですね。

〇静寂なる寒の川面は人寄せづ     美春

【評】大河を思い浮かべました。その威厳に胸打たれたのですね。「人寄せず」と表記しましょう。

△寒椿一輪ごとに色深む     美春

【評】雰囲気のある句ですが、「一輪ごとに」の解釈が難しいところです。たとえば「一日ごとに」色を深めるということなら分かるのですが。

△~〇岬廻の石の丸橋風光る     マユミ

【評】「岬廻」は「みさきみ」と読むのですね。「石」ですと、あまり煌めくイメージがありませんので、季語と合っているのか微妙なところです。

◎埋もるる境界石や花はこべ     マユミ

【評】はこべは地を這うように伸びますので、境界石からの視線の移動も自然で結構です。まだ肌寒い春先の雰囲気も感じられます。

◎臘梅の香や練る土の冷たかり     ゆき

【評】嗅覚と触覚を組み合わせた繊細な感覚の句です。「練る土」によって作者の生活感もきちんと伝わってきます。

△~〇豆を炒るその間に鬼は居なくなり     ゆき

【評】ユーモアを感じさせる句ですが、このままですと季語がありません。「節分の豆を炒る間に鬼去れり」などご再考下さい。

〇~◎獺祭やキュキュと磨ける窓硝子     徒歩

【評】獺祭は初春の季語ですが、カワウソや、書物を積み上げている書斎人などをも連想させ、難しいながらも面白い季語です。そんな連想から、窓ガラスを磨いている人もどこか可笑しみを感じさせます。「獺祭やキュッキュと磨く窓硝子」のほうが調べが自然かもしれません。

◎新札を財布に獺の祭かな     徒歩

【評】「獺の祭」は「おそのまつり」と読み、初春の季語。何となく俗っぽい感じが不思議と季語にマッチしていて実にうまい句です。

〇~◎下萌や黄ばみし文の出で来たる     妙好

【評】地面からは青々とした草の芽が、抽斗からは黄ばんだ手紙が出てきたのでしょうか。この対比がおもしろいと思いました。

〇段畑の鍬の通ひ路野梅咲く     妙好

【評】「鍬の通ひ路」とは、鍬を担いで行き来する通路のことだと理解しましたが、妙好さんの造語でしょうか。どこか雅な味わいのある句です。

〇芽ぶかんと桜の樹皮の赤らめる     音羽

【評】虚子に「紅梅の紅の通へる幹ならん」という句がありますが、それと相通ずるところがある句ですね。樹皮というと固くなった部分を連想しますので、そこが赤らむのかどうか疑問なしとしませんが、力強い句です。「芽吹かんと」と漢字を使ったほうが伝達しやすいように感じます。

〇太陽の塔に燕の影よぎる     音羽

【評】太陽の塔は生命力の象徴のような存在ですから、躍動する燕の姿とよくマッチしますね。どうせなら「影」ではなく、燕そのものを描いてはいかがでしょう。そのほうがもっと力強い句になるように思います。

△~〇算額の美しき図形に春日影     ひろ

【評】「野間野間大御堂寺にて」と前書があります。句形としてはきちんと出来ているのですが、何か物足りない感じがします。算額ですから「美しき図形」はほぼ見当がつきますので、算額そのものではなく、それが置かれていた場所などを写生するのも一法かもしれません。

△けふ雨水ホエーの溜まるヨーグルト     ひろ

【評】「ホエー」(whey)とはヨーグルトなど乳製品の表面に溜まる水分で、「乳清」とも。それが溜まるのはそんなに珍しいことではない気もしますので、感動のポイントになり得るのかどうか。また季語とのつながりも(たしかに「水」つながりではありますが)今一つわかりませんでした。

△~〇前屈の手のひら床に母の春     多喜

【評】元気なお母様のことを詠んだ句で、共感はしましたが、「母の春」が表現としてやや強引すぎる気がします。前書に「母」と記し、下五はもっと自然な季語を持ってきてはいかがでしょう。ちなみに「老いの春」は季語として認められています。

〇切り口の樹液滲めり寒の明け     多喜

【評】感覚的な句でけっこうです。「切り口に」でしょうか。季語は「寒の明」と送り仮名を省くのが一般的です。

〇結露する厨の窓や余寒なほ     織美

【評】結露といえば我が家もひどくて、窓の桟を布巾で拭くとぐっしょりします。いまわしい結露ですが、それをこんなふうに一句に仕立てたのは天晴れです。季語もきまっていますね。

〇籠り日に太る予感や春立てり     織美

【評】日記のようにして生まれた句ですね。それほど大きな感動があるわけでないにしろ、俳句はこんなふうに作ってゆけばいいのだと思います。「籠り日」も「春立てり」も時にかかわる語で、重複感がありますので、時候以外の季語を選ぶといいでしょう。

◎春動く天地返しの黒々と     恵子

【評】「春動く」は大きな季語でなかなか使いづらいのですが、春になり生命が動き出すことが本意ですので、農作業の「天地返し」との取り合わせはいいですね。「黒々と」からも生気が伝わってきます。

〇虹色の雫となりし春の雪     恵子

【評】詩情のある句です。中七は「雫となれり」でどうでしょう。なお、屋根等に積もった雪が溶けだして雫になることを「雪解雫」といいます。春の季語です。それを使えば、上五は思いつきませんが、中七・下五を「雪解雫は虹色に」とすることもできます。

〇一碗の静寂破るしず(づ)り雪     智代

【評】突然、屋根などからドサッと音を立てて雪が落ちることがありますが、あれが「しづり雪」。茶会の場面でその音を聞いたのですね。「静寂破る」が少し観念的ですが、とりあえずけっこうでしょう。

△雪解風蝉の骸をちりぢりに     智代

【評】実見しないと作れない句ですね。ただ、ここで夏の季語である「蟬」を持ってくるのは作品としてあまり感心しません。「蝉の骸」以外にも吹飛ばされたものはあったはず。それを句材にしたほうが、もっとよい作品になるように思います。

〇アスファルト触れては溶ける春の雪     万亀子

【評】なるほど、春の雪は積もらずにすぐ溶けだすのですね。春雪の本情をしっかりと捉えた句です。字余りでも「アスファルトに」と助詞を入れてください。字余りを避けるには、「舗装路に」とするのも手です。

〇~◎名呼べば子猫しつぽで応えをり     万亀子

【評】心がほっこりとする句です。少し手直しし、「名を呼べば子猫しつぽで応へけり」でどうでしょう。

△~〇水仙やペットボトルの水光る     永河

【評】晩冬のあわあわとした雰囲気が伝わってきますが、中七を「ペットボトル」で使い切ってしまうのはもったいない気もします。もっとほかに景が浮き上がってくる句材があるかもしれません。

△~〇川音の揺らめくやうに日脚伸ぶ         永河

【評】音が揺らめくという把握はユニークですので、「やうに」とせず、断定したほうがもっと強い句になるように思います。また、この形では切れがはっきりしませんが、季語の前で大きく切ると、「日脚伸ぶ」の働きもさらに増すはずです。

△~〇寺田屋の提灯震ふ余寒なほ     あみか

【評】情景はしっかり見えてきますし、固有名詞も効いています。ただ、「震ふ」と「余寒」はつきすぎでしょう。たとえば「梅二輪」など、季語をもう一工夫してみて下さい。

△~〇日の差せる仏足石や下萌ゆる     あみか

【評】「日の差せる」がじゃまをしているように感じます。この仕立て方ですと仏足石には日が差しているのに草の芽には差していない、との読みも成り立ちますし。仏足石にも下萌にも春の日が行き渡っているような句にしてほしいと思います。

△~〇冬空の鈍色となり逸る帰路     ちづ

【評】すなおな作ですが、「逸る」までは言わないほうがいいでしょう。「冬空の鈍色となる帰り道」だけで十分です。

〇雪原に飛び込む犬よ雪に跳べ     ちづ

【評】「雪原」と「雪」の重複は気になりますが、気持ちのこもったよい雰囲気の句です。下手に添削するよりこのまま残したほうがよさそうですね。

〇雲間より差し込む朝日小雪舞ふ     千代子

【評】すなおに作られた句です。「雲間より朝日差し込む小雪かな」など、もう少し俳句らしく仕立てる方法もありそうですが、とりあえずこの形で残しておきましょう。

◎菜の花を摘めり伊良湖の風のなか     千代子

【評】郷愁を誘うような、春らしい素敵な句です。「伊良湖の風」が実にいいですね。

〇寒水で濡らす亡父の痩せ砥石     利佳子

【評】字数からすると「亡父」は「ぼうふ」と読むのですね。むしろ生前のお父さんを詠んだほうが「痩せ砥石」が活きるのではないでしょうか。「寒水で父が濡らせる痩せ砥石」など。なお、「寒水」の用例はありますが、一般には「寒の水」で使います。

〇鴛鴦を待つ観察小屋に息潜め     利佳子

【評】野鳥観察の場面ですね。「息潜め」に実感がこもっています。この句は息を潜めて待っている自分自身に焦点を当てていますが、次はぜひ鴛鴦も詠んで下さい。

◎妻も来て薪ストーブを囲みけり     慶喜

【評】山荘での場面でしょうか。「薪ストーブ」がいいですね。会話も弾みそうです。

△昼下がり鴨の啄ばむ庭の実を     慶喜

【評】「昼下がり」はなくてもいいでしょう。下五が「を」という助詞で終わるのも不安定です。鴨は水鳥ですので、「庭の実」とのつながりもわかりづらくなっています。池のある庭園でしょうか。前書がほしいところです。

次回は3月15日(火)の掲載となります。前日(14日)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。

 


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30