本日の記事で取り上げようと思っていたことが、ちょうど20日日曜日の朝のNHKでも一部が取り上げられていました。
NHKが国立大学長への権力集中が生む混乱を取り上げた。学長を牽制すべき機関の委員を学長が選べるという制度のため、学長の独断専行が止められず、多くの大学でトラブルが発生。静岡大でもそれが起きかけた。幸い見識ある学長選考会議議長の英断で前学長とは違った主張の学長が誕生したが未だ混迷中… pic.twitter.com/z7KhN9k1GS
— モト (@29silicon) June 20, 2021
国公立大学で学長が暴走して、学内外からの批判や懸念の声が上がっているところが全国各地にいくつもあります。日本の国立大学は、2006年までは文部科学省の一部局という位置づけだったのが、「国立大学法人」という形で法人化しました。この時、学長には強い権限が与えられました。法人化直前の頃に私は信州大学にいました。法人化前の研修で、法人化後に経営審議会委員になる見込みの財界の方々の話を聞くというのがありました。エプソンの会長や八十二銀行の元頭取など、全国的にも知名度の高い方々の話を聞いたのですが、非常に印象に残っているのは「国立大学法人の学長というのは、独裁者的な権力をもっている。こんな強い権力を持つポストは、民間企業では聞いたことがない」と、皆さんが口をそろえて仰っていたことです。
それでも当時はまだ、学長の選考には教員による意向投票(いわゆる学長選挙)が行われることも多く、ある程度の歯止めがあったように思います。しかし2014年に学校教育法の改正があり、教授会がもっていた権限が学長に集中するようになりました。意向投票も多くの大学で廃止されました。他方で学長の仕事をチェックする機能は著しく弱いままです。
国立大学総長選がわからなすぎる 学生無視、おかしな選考方法が変わらないワケ https://t.co/KbG7VYQsZB #デイリー新潮
— 全大教(全国大学高専教職員組合) (@zendaikyo01) May 20, 2021
【書きました】昨日の衆院文部科学委員会での意見陳述の抄録がBIに掲載されました
「17年間で“150度”変わった」国立大学。法人化で進んだ「学長暴走」容認システムをどう変えるか【国会審議中】
委員会で配布したチャート「学長選出方法等の変遷」も転載。一目でわかりますhttps://t.co/tpVOEWfyaw
— 石原 俊/Shun Ishihara (@ishihara_shun) April 21, 2021
そして実際に、いくつもの大学で不可解なことや不透明なことが生じています。
意向投票で選出された学長が、根拠が不十分なことで解任されたり…。
国立大学の途方もない闇を示す出来事。名和北大前総長は「パワハラ」で解任されたが、告発文書は存在しないことを北大が認める。
北大総長選考会議の決定に従って総長を解任した萩生田文科大臣は、告発文書がなくても解任の判断が正しかったと言えるのか、説明責任がある。 https://t.co/yGslsFEMvI— Komagome Takeshi (@KomagomeT) May 20, 2021
学長が病院長にパワハラを行った末に解任、さらには業務実態のない学長補佐に報酬が支払われていたり。
うわっ、こんなことまで起きている。国立大学の学長の選任•解任の仕組みを根底から改める必要がある。
「事務局は「業務実態がない」などと拒否したが、吉田学長から支払いを再三命じられ、数回に分けて男性に数カ月分の報酬を振り込んだ。総額は数百万円にのぼるという。」 https://t.co/gkW0htJ3L0
— Komagome Takeshi (@KomagomeT) June 14, 2021
学長の任期を撤廃してしまった大学も。学長に任命される際の根拠となっていた大学のグローバル化への貢献には、留学生数の水増しもあったとのことです。
【メディアの皆様へ】明日3/23「筑波大学の学長選考を考える会」が、永田恭介氏の学長再任命を止める文科相宛要望書を提出後、15時から文科記者会で会見。永田氏再任理由となった指定国立大学申請時の留学生数水増し疑惑について、世界大学ランキングを発表しているTHE社が国際基準違反を認定とのこと pic.twitter.com/pjfA7pEqWD
— 石原 俊/Shun Ishihara (@ishihara_shun) March 22, 2021
筑波大学の学長選考を考える会
「永田学長再選を受けた緊急声明(10月21日)
不正な選考を認めない。学長、副学長の責任を問う。」https://t.co/ubE11EeZEA— 全大教(全国大学高専教職員組合) (@zendaikyo01) October 22, 2020
大学の教育課程を大混乱に陥れるような人事を強行した大学もあります。
①下関市立大学の度外れた私物化 市長の縁故採用教員が副学長に 学内の民主的手続き軒並み廃止 https://t.co/T5UkrJm9l4
「以前から市長や政治家、市幹部職員OBの介入による私物化や独裁的な大学運営が問題視されていた」
— Conflict (@macos9x) December 5, 2020
学長に権限を集中させたのは、教授会のような集団での意思決定では改革のスピードが上がらないからということのようです。冒頭のNHKのニュースでは、一部の大学では研究資金の獲得などで成果もあげたと言っていました。ただそれは一時的にお金が手に入ったということであり、長期的にみたときにはどうなのだろうかと思います。他方で、学長の専横によって教育や研究の基盤が壊されてしまうと、元に戻すのは非常に困難です。しかも民間企業とは異なり、株主総会や株主代表訴訟のようなものもありませんので、学長はやりたい放題の責任を取る必要がないのです。
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。