高齢者の住まいは現場に行くことが重要
昨今、介護の現場でも不祥事やトラブルが散見される中、現場の状況を確認することはとても大切です。「目で見ることのできないサービス内容」を聞き、「従業員が働きやすい環境かどうか」を聞く、ということは施設に足を運ばないとなかなかわかりません。先週「シニアアカデミー」講座受講生の方々と京都市内の有料老人ホーム2ヶ所に行ってきました。それまでに座学で「高齢者の住まい」の基礎を勉強してきて、この日は現場での「実習」です。とても寒くて小雨降る中でしたが、全員元気に出席。当日は異なるタイプの2施設に伺いましたが、それぞれの特徴や違いがよくわかったようです。もちろん、入居者と同じ食事も試食させていただきました。受講生の皆さんも「すっごく美味しい!」とご満悦。「初めて老人ホームを見学する」という方もおり、想像していたものと違ったと感じた人もいたようです。私自身もこの20年、仕事で国内外の老人ホームや高齢者住宅をおそらく800ヶ所ぐらい行きましたが、20年前に比べると住環境や食事事情は隔世の感です。現場は変わり続けていると実感します。
有料老人ホームは「介護付」と「住宅型」に大別される
有料老人ホームは実は3つに分類されます(3類型といいます)。「介護付」「住宅型」、そして「健康型」。でも実質「健康型」はほとんどありませんので、一般の方が選ぶときは「介護付」か「住宅型」のいずれかになります。外見ではわかりません。制度の違いなのですが、「介護付」の場合は行政から「特定施設入居者生活介護(略して特定施設)」の指定を受けているところです。それ以外は「住宅型」。では、「特定施設」とは何か? 特徴としては2つあります。1つは、入居者のためだけの介護職員が施設に規準配置されていること。もう1つは、要介護度によって介護の費用は固定であること。自宅で介護保険を利用すると、訪問介護1回いくら、デイサービス1回いくら、というふうに1ヶ月分合計して利用した分から自己負担割合を支払いますが、特定施設の場合は要介護度別で1ヶ月の費用は定額で決まっています(正確には1日分が定額)。老人ホーム、介護施設、高齢者住宅などさまざまな呼称がありますが、介護の費用を考えるとき、その施設によりこのように固定式と積算式に分かれますので、事前の確認が大切です。話はそれましたが、先週伺ったのは1件目が「住宅型」、2件目は「介護付」。受講生の皆さんはすでに座学で学習済なので、施設の方の説明も理解しやすいようでした。それぞれにメリット・デメリットがありますので、自分の考え方に合う住まい選びが大切です。
食事は重要
老人ホームは、元気なうちに入居する「自立型」と介護が必要になってから入居する「介護型」にも分けることができます(上記の3類型とはまた別の考え方です)。「自立型」は、今の生活と変わらないので自炊や外食も可能ですが、「介護型」の場合は、ほぼ全員が施設内で朝昼夕の食事をとることになります。体が弱ってくると「食事」は最大の楽しみともいえるので、試食は大切です。単に味が美味しいということだけでなく、食事の提供システム(予約制か予約なしか、前払い式か後払い式か、配膳式かセルフか、メニューの選択があるか、アルコール等嗜好品は可能か、体調がすぐれないときの食事提供は可能か、etc.)の確認も重要。先週見学したホームでは、ダイニング・スタッフが配膳してくれ、料理の内容も説明してくれました。さすが高級ホーム(笑)。和食レストランなみに美味しかったです(*^^*)。なお、有料老人ホームでは栄養士が高齢者の健康に配慮したメニューを作るよう指導されています。
看取りの体制の確認
1つ目のホームはまだ開設して1年目、とてもきれいで最新設備が特徴でした。2つ目のホームは開設25年の経験豊かなところです。施設内にクリニックも併設され平日は毎日医師が滞在することに、受講生の皆さんも高い評価でした。館内見学後、最後の質疑応答には、施設長、看護師、介護職員が対応してくださり、臨場感あるお話をいろいろ聞くことができました。なかでも「看取り」の話は受講生の皆さんも最も関心のある内容だったようです。以前から希望に応じて「看取り」を行っていることは知っておりましたが、今回は具体的な状況を聞くことができました。この1年で7人の退去(全員死去)のうち、6人は施設内で看取り、1人のみ病院だったそうです。「看取り」というと、テレビドラマのように人が常に周りで見守っているようにイメージする人が多いですが、現実は病院でもそんなことはありません。血圧や呼吸など本人の様子から、見回り頻度を上げます。老衰などの場合はおおよそ状況からどれくらいで…とわかることが多いようなので、いよいよとなると家族に連絡し、1日、もしくは数時間付きそうことが一般的。「苦しまれる方はいませんか?」とお聞きしてみると、施設の皆さんは不思議そうに「そんな状況は見たことないですね」とのこと。
この施設だけでなく、過去さまざまな看取りをしている施設でお聞きしていると、無理な延命をしない場合、最後は枯れて眠るように旅立つと言います。また余分なものが出ていくからか、皮膚がきれいになるケースも多いと聞きます。
ただし、価値観は人それぞれ。最期まであきらめないで延命を望むことも間違ってはいません。しかし、いずれにせよ自身と家族の希望はしっかりと考えられるうちに意思表示しておくことがとても大切だと、実感しています。
「高齢者の住まい」は、いずれも人の「暮らし」があるところです。
何度訪問しても、そこでの暮らし・生活はひとつひとつ異なるのだ、と実感します。しかし、若いときと違うのは、残された時間がより短くなっていること。「老人ホームに引っ越したから、あとはお任せ」ではなく、どう生き、どう旅立つか、それをサポートしてくれる“住まい”かどうか、高齢者住まい選びは、その人の人生の価値観も反映されると感じます。
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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。