高齢期の暮らしと住まい(2)

高齢者の孤独死は最近の問題ではない

昭和49年7月25日発行:全国社会福祉協議会

高齢者の「孤独死」「孤立死」が報道されて以来、一人暮らし高齢者の多くの人は不安に感じているのではないでしょうか。センセーショナルな「団地での孤独死」は、かつて集団で団地入居した人々が高齢になり発生しているという印象を持ってしまいがちですが、実は「孤独死」は今になって問題化したわけではないようです。先日、「孤独死老人ゼロ運動」という冊子を読みました。発行日は昭和49年7月。全国社会福祉協議会が発行したものです。40年以上前にすでに問題になっていたのですね。痛々しい事例とともに、当時のデータも各種掲載されており、今の時代と何ら変化がないことに驚愕しました。要するに40年経っても「孤独死」の対策は進んでいないということ。なかでも、買い物難民による栄養不足、住宅のバリアにより外出できない高齢者などが問題視されています。そして解決に向けた提言の中には「家庭奉仕員(現在のホームヘルパー)の増員」があげられています。いま、介護保険の改正案で国は訪問介護の「生活援助」を「家事手伝い」のように捉える傾向がありますが、単なる家事(お手伝いさん)ではなく、本当に必要な高齢者は生死にかかわる問題です。むしろ昨今の案には「介護の後退」を感じてしまいますが、机上の空論ではなく「現場」をしっかり見て制度を整えてほしいものです。

実は「高齢者」と限らない孤独死

東京都監察医務院:自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計(H28年)

さて、「孤独死」というとイコール独居高齢者と思いがちですが、男女・年齢別で見てみると少し事情が異なってきます。グラフは東京都監察医務院(東京23区で死因不明の死亡者等を扱う機関)のもの。東京23区内だけの数字であり、地域性があるかと思われるものの、おそらく都市部では同じ傾向が出るでしょう。これによると、男性は中年期40代後半から孤独死リスクが高まり、65~69歳がピークなっています。男性の平均寿命が80歳を超えた今、早すぎると感じますね。また、女性の場合は長寿で一人暮らしが多いものの、総数では男性よりぐっと減り、孤独死年齢も85歳以降がピークとなっています。メディアなどで報道されるケースも多くが中高年男性の孤独死が多いように、男性は周辺との交流を持ちにくく、生死にかかわらず孤立している人が少なくないと推察されます。

自発的な『自助・互助』がとても重要

厚生労働省「地域包括ケアシステム」概念図

先述の昭和49年「孤独死ゼロ運動」では、虚弱高齢者は在宅では限度があるため施設を増やすべきとの提言もなされています。しかし、現状施設増は現実的ではありません。そして、国の方針としては「自助・互助」をベースに老後設計をするよう訴えています。自助は字のごとく「自分でなんとかする」。互助は「家族や近隣の人が助ける(金銭が介在しない)」ということ。この2つに無理がある人に「共助」、社会保険制度を利用して自己負担をともなうサービスを提供する。それも叶わない人には生活保護などを「公助」として提供するという方針です。しかし「孤独死」防止には自助では限界があります。都市圏では人間関係が薄れてしまっています。居住者の入れ替わりや防犯を考えると、致し方ない部分もありますが、困った時に近隣のちょっとした手助けがあると心強いものです。「お互いさま」の心で、助け合える地域づくりがこれから非常に重要になってきます。お隣さんの「大変そうだな」「ちょっといつもと違うな」というとき、小さいお手伝いをする勇気を持ちたいものです。

自立型有料老人ホームの居室のトイレ天井にある「生活リズムセンサー」

ITシステムの利用も一つの対策

自立型有料老人ホームの居室には「生活リズムセンサー」が設置されているケースが多くあります。居室内にいるのに長時間トイレを使用していない等の場合、管理室に「動きがない」(倒れている可能性)と通報がされ、職員が確認する仕組みです。このセンサーの仕組みや緊急通報ボタンなどを一戸建ての住宅に設置することも可能です。民間サービスもありますし、自治体が一人暮らし高齢者に安価に提供する場合もあります。利用してみたいという方や老親と遠く離れる家族は、一度自治体に問い合わせてみると良いでしょう。

 

 

これからさらにIT化やロボットが進化すると、画期的な見守りシステムが出現するかもしれません。しかし、便利なツールは利用しながらも、私たちは人間としての「お互いさま」の気配りも忘れたくないですね。

 

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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。


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