アメリカの大学教育のあり方について研究しているAAC＆U（Association of American Colleges and Universities）という団体があるのですが、その年次大会に参加しました。もちろんオンライン参加です。
参加申し込みをするとIDなどが送られてくるので、それを使ってWebブラウザ画面からプログラムをみて（下のスクショのような感じです）、参加したいワークショップやセミナーをピックアップ、開始時間が近づくと「参加」ボタンが表示されるので、それを押すとZoomなどのテレビ会議システムが立ち上がります。先方は昼間ですが、こちらは夜中。登壇者もそれぞれに、「フロリダの温かい日差しの中からご報告です」、「こっちは大雪ですよ～」と会話していたりして、同じ場所に集まっていない状態での大会参加というのは、なんとなく奇妙な気分がすると同時に、面白い経験でもありました。
議論されている話題は、何といっても新型コロナウイルス感染拡大を受けての事柄（特にオンライン学習）が圧倒的です。日本の学会でも似たようなもので、Covid-19をテーマにしていなくても、質疑応答はCovid-19一色のようになってしまうことがあります。同時に今年のアメリカで大きな話題となっていたのは、人種差別主義をどう克服するか、Black Lives Matter運動が突き付けた課題を大学はどう受け止めるかということでした。Covid-19感染拡大の影響は、人々に平等に降りかかったわけではありません。オンラインで学べる環境が自宅にない学生は、非白人の学生などのマイノリティに多く、家族のケアをしながら学んでいる学生も同様です。学習環境そのものは何とか確保できたとしても、オンラインで発言したりすることに躊躇したり自信を無くす学生も少なくなく、このような影響の出方も、学生の民族的、社会的、経済的背景によって異なっているようです。このような状況を放置しておくと、様々な格差が広がり、結果的に分断が深まります。そんなことにならないように、オンライン授業や学生支援に際してどのような方法論を構築していけばよいかについて、様々な議論がありました。
面白いと思った表現が１つありました。” be comfortably uncomfortable” （安心して不安でいてくださいor心地よく居心地悪くいてください）というものです。オンラインでの学習は、対面とは様々に異なるので、不安な気持ちになります。例えば、カメラがオフになっていて、クラスメートたちの顔が見えないのは不安ですが、かといってカメラをオンにして自分の顔を出すのも不安です。発言をするのも躊躇します。でもそれ自体は当たり前のことだから、不安に思っている自分を不安に思う必要は全くない、そういうメッセージを送ることの大切さが話されていました。
バイデン氏が大統領に就任して新しい政権が発足しましたが、Covid-19にせよその他の深刻な状況にせよ、そう簡単に解決するわけではないのだと思いますし、アメリカの大学も大変だなあ…と思いました。しかし同時にアメリカの大学や教育政策は、大学教育から排除されていたマイノリティを積極的に大学に受入れ、学びを支援することを長年にわたってやってきました。2020-2021年の状況にあっても、時代に応じた学生支援を提案、実行していく、そういう力の厚みのようなものを感じました。
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西垣順子＜大阪市立大学　大学教育研究センター＞
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「（寺じゃないけど）てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案（法律文化社）」「大学評価と青年の発達保障（晃洋書房）」（いずれも共著）など。