学問の自由とはー菅首相による日本学術会議会員の任命拒否問題(4)

日本学術会議会員6名の任命拒否をめぐって、「学問の自由の侵害だ」という主張と、「いや、侵害ではない」という政府側の応答が続いています。本日は、「学問の自由とは何か」ということを考えたいと思います(ちょっと硬い文章になってしまいますので、一番下に紹介した動画を先に見ていただくと良いかもしれません)。
よくある誤解は、「学問の自由とは、大学教員をはじめとする学者・研究者が好き放題に研究をすること」というものです。この誤解は、いくつかの重要な点を見落としています。
第1に学問の自由は、権力からの自由であるということが重要です例えばその時の政権与党は強い権力を持っていますが、その権力の思惑に左右されずに研究者が研究を行い、成果を発信する自由である必要があります。研究者の側から見れば、その時の権力の思惑に振り回されず、忖度せず、自らが見出した真理・真実を追求して表現していく責任があります。
第2に学問の自由は、その社会で暮らす市民のためのものであるということです。学者・研究者が権力者の思惑に支配されて、真実を見ないふりをしたり、真実ではないことを表現したりすれば、それは一般の市民の方々に大きな迷惑となります。
現下の状況では、Covid-19のワクチン開発が急がれています。ワクチンは、それが科学的な検証を経て開発されていくものであれば、一般の人々にとってありがたいものでしょう。しかし、政治の思惑に支配されて、安全性のチェックが疎かなままで市中に出回ったりしたら大変なことになります。また京都では昨秋に、ALS患者の方に対する嘱託殺人事件がありましたが、事件の後に何人かの政治家から「安楽死の議論をするべき」という発言がありました。無知の上に立つ議論は危険です。あの事件は「安楽死」の定義には該当しません。こういう状況で、哲学・倫理学などの人文系・社会科学系の研究者が適切な情報提供を社会に対してできない状況になれば、さらなる命が不当に失われる危険すら生じます。
第3に学問・研究の多くが大学で行われていることから、学問の自由は「学生の学ぶ権利を保障するためにある」という視点も重要です。学生たちには真実を学ぶ権利があります。研究者が学問の自由を保障されていなければ、学生たちは歪められた「知識」を学ばされることになってしまいます。また研究者である大学教員は学生に対して、権力に臆することなく、真実を語る責任があります
つまり「学問の自由」とは、「学問に関わる人々(研究者自身や学生、研究に協力する人々、研究成果発信に協力してくださる出版やメディアの方々など)が、不当な支配に屈することなく、自らの良心に従って誠実に研究を行い、この社会で暮ら人々の幸福追求に資すること」と言えるかと思います。ちなみに私が研究の際によく引用する田中昌人(故人)は、「真理真実以外は何物も怖れないという姿勢をもって」という言葉を、よく使っていました。
最後に、神戸学院大学の景山先生が学生に向けて語る学問の自由についての動画を紹介しておきます。「学問の自由とは」の話はあと何回か続きますので、次回以降もよろしくお願いします。

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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>

滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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