「安全保障関連研究」と”学問の自由”とは?ー菅首相による日本学術会議会員の任命拒否問題(5)

先週から、「学問の自由」について考えています。本日は「軍事研究をやりたい研究者が軍事研究を行うのは、学問の自由だ」という主張について検討します。
日本学術会議会員の任命拒否という政治介入が行われている背景に、2017年に学術会議が出した声明「軍事的安全保障研究に関する声明」があると推測する向きもあります。実際に自民党の学術会議のあり方を検討するプロジェクトチームの座長である下村博文氏などが、日本学術会議はもっと安全保障研究に積極的に協力するべきという発言をしたりしています。


報道等を見ていると、「軍事的科学研究」「安全保障研究」「自衛研究」などという言葉が無頓着に使われ、結果的に不適切な認識の拡散を招いているようにも思います。


まず、安全保障研究・軍事研究という言葉には広義の意味と狭義の意味があります。広義には「軍事に関連する研究」となりますが、狭義には「防衛省などの軍事・安全保障部門から研究費を獲得して行う研究」を指します。
広義の安全保障研究は、戦後の日本でも広く行われてきたと言って良いかと思います。世界のどこかで軍事的緊張が高まったりすると、「安全保障の専門家」と紹介される人物(大学教員であることも多い)がテレビなどで解説をすることがありますね。
この専門家たちの知見が、学問成果として広く世界に共有され、なおかつ、戦争や抑圧に悪用されないように本人も社会も最大限の監視を行う限りにおいて、これらの研究が否定されるべきだとは、私も思いません。
他方、2017年に日本学術会議が慎重姿勢を各大学に求めたのは、狭義の軍事・安全保障研究、つまり防衛装備丁が行う研究助成金に応募することです。そして日本の大学に勤務する大学教員の中には、研究のためにならどんなお金であっても欲しいと思い、またそう思うことを肯定する人もいます。その人たちにとって、日本学術会議の上述の声明は研究資金獲得の邪魔ですから、「日本学術会議が学問の自由を侵害している」と主張するのです。
しかし、先々週のカナリア倶楽部に書いたように、学問の自由というのは決して、研究者が好き放題して良いということではなく、「権力による不当な支配に屈することなく、その社会で暮らす市民と大学で学ぶ学生のための責任を果たすためにあるもの」です。この立場から考えると、防衛省などの軍事部門から研究資金を得た研究を大学で行うことは、「学問の自由だから認めるべき」とはいかない事柄かと思います。
研究者が研究補助金を得る場合、その補助金の使い方や補助金を得て行った研究成果の公表の仕方などでは、資金元が示すルールに従う必要があります。軍事・防衛関連部門からのお金に関わるルールは、文部科学省や厚生労働省などから得るお金に関するルールとは大きな違いがあります。特に大きいのは、研究成果を広く公表するのではなく、秘密にしないといけないということです。軍事研究ですから当然のことではあります。
他方でそれらの研究は、防衛装備庁などの学外からの資金援助を得ているとしても、大学が有する資源を活用して行われるのです。大学の設備を使い、水光熱費も使います。資金を管理するのは大学の事務職員です。そして何よりその研究には、大学院生を中心に学生が参画させられることになります(学生の立場で断るのは難しいでしょう)。それなのに、得られた研究成果は市民社会には還元されず、秘密にされます。「デュアル・ユース」という言葉が使われて、「民間転用も可能」と謳われてはいるのですが、それはごく一部にすぎないのです。
防衛装備庁のお金を使っていなければ100%が市民社会に還元されるのに、防衛装備庁のお金を使えばごく一部しか還元されません。これでは、市民社会に対する責任を果たしているとは言えないでしょう。
また、現在の軍学共同の制度ではまだ、研究室に出入りする学生の国籍に制限等はかけられていないようですが、いずれはそういう話も出てくるのではないかと懸念されます。国籍によって学生が出入りを禁じられたりする(差別される)ような場所が大学内にあるのは、いかがなものかと思います。
つまり、軍事部門からお金をもらった研究を大学で行うことは、学問成果を市民社会に還元できないという意味でも、学生の学ぶ権利を侵害しやすいという意味でも、「学問の自由」とみなしてよい行為ではないと思います。

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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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