「法の支配」の崩壊ー菅首相による日本学術会議会員の任命拒否問題(3)

日本学術会議とは何か」、「日本学術会議をめぐるデマ情報」に続く第3弾です。この問題はメディアなどでも「学問の自由の侵害」と報道されることが多く、実際にそうではあるのですが、実はそれ以上に「法の支配」を崩してしまうものです。
法の支配とは、法によって権力を縛るというものです。権力を持っている人が恣意的な権力行使をすれば、一般の市民の平和で安全な暮らしが脅かされます。そうなっては困りますから、権力に一定の歯止めをかけます。よって、たとえ首相であっても大臣であっても、法に従って権力を行使しなければなりません。首相になったからといって、何をやっても良いわけではありません。また仮に現在の法律に不具合があるなら、法改正をしないといけません。
さて、日本国憲法では第23条で「学問の自由は、これを保障する」と書かれています。ただこれだけでは抽象的ですので、具体化するための法律がいろいろとあります。その1つに「日本学術会議法」があります。全文はこちらから読めます。


今回の問題に直接関連するのは、次の3項目です(色文字は筆者による)。
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・第七条 
日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
・2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する
第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。
・第二十六条 内閣総理大臣は、会員に会員として不適当な行為があるときは、日本学術会議の申出に基づき、当該会員を退職させることができる。
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第7条と17条から、学術会議の推薦に基づいて総理大臣が任命することがわかります。「基づいて」を赤文字にして下線をひいたのには理由があります。日常用語と法律用語は意味が常に同じとは限らないのですが、法律で「~に基づいて」というのは日常会話のそれと比べて、拘束力がかなり強いのです。また、第26条にあるように、不祥事等で会員を退職させるときでさえも、学術会議の申出に基づいてでなければ退職させることはできないと規定されているのです。
なお、日本学術会議が設置されてから今日まで、会員の選考方法は何度か変化しているのですが、現在の制度が導入されたときにも、首相の任命拒否は想定されていなかったことを示す文書も出てきました。


このようなことで、総理大臣が「総合的俯瞰的に判断」して任命拒否をするような権限は、法律上与えられていません。つまり、これがまかり通るなら、学問の自由の問題に限らず、あらゆるところで権力者が横暴をしても構わないということになってしまうわけです。
実際のところこういう観点からこの問題に抗議している方もいます。カナリア倶楽部の気になるtweetでも時々登場していた菅野完さんは、官邸前でハンストをしていました。


ハンストは25日に及んだそうです。


池田香代子さんが取材している動画もありました。


次回は「学問の自由」の観点から、この問題を考えたいと思います。

※本題とは少し違いますが、法治主義と法の支配の違いについて、東京中央法律事務所のコラムがわかりやすかったです。


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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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