菅首相による日本学術会議会員の任命拒否問題(1)

テレビや新聞でも取り上げられていますが、日本学術会議会員に推薦された105名のうち6名の任命を、菅首相が拒否しました。twitterでつぶやいたら、なんとリツイートが652、「いいね」が881(10/2時点)もあり、びっくりしています(私のtwitterでは桁違いの過去最高です)。


今回の記事から2-3回に分けて、なぜ菅内閣のこのたびの行動が学問の自由を破壊し、ひいては民主主義を根本から否定するものであるのかについて説明させていただきたいと思います。

そもそも日本学術会議とはどういうものであるのかについては、学術会議のwebサイトに書かれています。


設立は昭和24年です。内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われています。主な役割は「政府に対する政策提言」「科学者間ネットワークの構築」「科学の役割についての世論啓発」「国際活動」です。
日本国憲法では「学問の自由」が保障されています。これは「学者だけの権利」ではなく、広く一般市民の人権です。学術的真理以外のものに学問が従属するようになれば、社会全体が危なっかしいものになるからです。
日本学術会議は学術に関連する政策提言などを行い、日本の社会の学問の自由を守る役割を果たしています。この会員人事に政権が介入するということは、学問の自由を侵害するものに他ならないのです。
なお、「学術会議会員に選ばれなくても研究はできるのだから、今回の件は学問の自由の侵害ではない」という趣旨の発言をしている政治家・コメンテーターがいますが、このような理由から、それは全くの誤解と言えます。

これまでに行った答申や提言等についてはこちらから見ることができます。


近年で特に話題になったのは、2017年3月の「軍事的安全保障研究に関する声明」かと思います。
これは、「防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度」が2015年度に始まったことを受けてのものです。大学などの研究機関を対象に軍事分野に応用でいる研究を推進するための補助金制度で、予算額は初年度は3億円でしたが2017年度からは100億円を超える研究予算となっています。
大学で軍事研究を行うことには様々な懸念があり、また先の対戦で科学・学問が戦争に利用された反省も踏まえ、2017年に学術会議は上記の声明を出しました。大学に対して相当程度に慎重な対応を求めた内容で、この影響もあってか、大学からの応募は少ない状態で推移しています。この制度に応募しないと宣言している大学もあります。
詳細は、軍学共同反対連絡会のサイトをご覧ください。

今回の菅首相の任命拒否には、このような日本学術会議の動き(政権の思惑に黙々とは従ってこなかったという実績)があることを指摘する見解もあります。


菅首相は6名を任命しなった理由を明らかにしていませんが、人事に介入することで、学術会議の意思決定に政治的な介入を行うことを意図しているのは確実かと思います。

日本学術会議の210人のメンバーは、3年おきに半数ずつ改選されます。設立当初の会員は公選制で選ばれていました。多い時には20万人以上が投票権を持っていました。1984年に学協会推薦制になり、2005年には「現在の学術会議が次のメンバーを推薦する」というコ・オプテーション方式を採るようになっています。日本学術会議には、協力学術研究団体(いわゆる学会)が登録されており、次期の学術会議会員の推薦名簿を作成する際には、これらの学会に対して適任者の推薦についての問い合わせをしたりして、幅広く優秀な研究者を選考する努力もなされています。
さて、1984年に公選制が廃止されたのは1つの大きな転機ではありました。その背景とこれまでの変遷について、元国立天文台長の海部宣男先生がわかりやすい説明をしておられます。


政権が、自らの思うように動かせない日本学術会議にいろいろと圧力を欠けたりしてきたこともわかりますし、他方で一般の研究者と日本学術会議の距離感についても率直に書かれています。
学術会議会員の選出が、公選制から推薦制になったのは、学問の自由や学術界の自律性という観点からは一歩後退だったかもしれません。但しその当時でも、当時の中曽根首相は「総理大臣による任命は形式的なものである」と国会で答弁しています。


当然ながらこの国会答弁(政府解釈)は、現在の政権にも適用されるものです(変更するのであればしかるべき手続きを踏まないといけません)。
日本学術会議の人事への介入は、実は2016年にもあったとのことです。欠員が生じたので新たな会員が推薦されたのですが、それを任命しなかったのです。


他方、2018年度にこっそりと政府解釈を変更をしていたとの報道もあります。これは検察庁の黒川長官の定年延長問題の時と同じやり方です。


いずれにせよ、日本学術会議の人選に政権が関与できるようにしていく下準備は、水面下で着々と進んでいたと思われます。
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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