アメリカの大学はどうなる:保守派の判事が多数を占める米国最高裁の判決の行方

今年の6月30日に米国の最高裁が、ハーバード大学などの有名大学が入試において、志願者の人種を考慮していること(社会的に不利な状況にある人種の人を「優遇」するやり方)を違憲と判断しました。このニュースは日本でも報道されているので、ご記憶の方も多いかと思います。


実は昨年の6月末にも私は、カナリア倶楽部の記事で、米国の大学の状況を紹介しています。いくつかの州において、大学で教える内容の規制が広がっており、全米大学協会(AAC&U)がそれに対する抗議声明を出したというものでした。


この度の最高裁判決に対しても、全米大学協会は懸念を表明しています。また多くの学長経験者が賛同声明を出したりしています。


声明文の中では、トランプ政権時代に任命された保守派判事が多数を占める連邦最高裁判所が出してきた判決による影響がいくつか述べられています。例えば、昨年の6月末に、人工妊娠中絶を認めないという趣旨の判決(各州が決めて良いという判決)が出された結果、学内での医療サービスや情報提供の制限の他に、医師やその他の医療職育成の教育内容に変更が余儀なくされているということも書かれています。
なお米国の積極的差別是正措置(アファマティブ・アクション)の歴史は1960年代にさかのぼります。具体的な方法も試行錯誤されてきています。日本でこの話をすると、「黒人を*%以上入学させる」といった比較的単純なやり方を想像する人が少なくありませんが、現状はそれほど単純ではありません。とは言え、歴史的に不利な状況に置かれてきた人々を積極的に大学に受け入れることは、大学のあり方も社会のあり方も変化させてきました。現状でも十分とは言えませんが、それでも企業や役所の主要な地位で働く有色人種が増えてきた背景には、大学入試のあり方があります。
なお判決の内容は、例えば「貧困家庭で育った」というような、人種以外の不利な状況の考慮は排除していません。そのため大学の工夫次第では、現状のような差別解消を目指した入試の継続は可能かもしれません。ただそうはいっても、やりにくくなることに間違いはない上に、これまでにもすでに制約が加えられつつあります。米国の大学のあり方は、日本の大学制度にも影響が大きいだけに、今後の動向が気になります。最後にこの問題の背景と今後の影響について、詳しく解説している論考と動画を紹介しておきます。


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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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