LGBT理解増進法によって差別解消を妨げさせないために

前回の記事では、LGBT理解増進法の議論をきっかけに、トランスジェンダーに関する差別的なデマが広がっているという話を書きました。今回は、日本維新の会と国民民主党による修正案が採用されて成立したLGBT理解増進法の内容について書きます。
今国会では、立憲民主党や共産党が提案していた案(2年前に超党派で合意していた案)、自民党案、維新・国民民主案の3つが並んでいたため、ややこしい状態だったと言えると思います。


もともとは、「差別禁止」にまでは踏み込まず「理解増進」にとどまるとしても、LGBTQ当事者の人権が保障されることをめざす法律のはずでした。それが最終的に、多数派である非当事者の「安心」や、保護者・地域住民の「協力」といった文言が加わり、多数派の考え方が尊重されることを保障するかのような法律になってしまいました。そのため、当事者やアライ(LGBTQ当事者を理解・支援・連帯する人のこと)の人達が、反対の声を上げていたのでした。
しかし残念ながら、「ないほうが良いのでは」と言われるような法律が通ってしまいました。この後どうしていくかを、考える必要があります。もちろん、この法律を改正したり、新たに差別解消法や差別禁止法を作るという動きも大事だと思うのですが、今回成立した法律をどう理解するかということも大事なところと思います。
残念な文言が加わったとはいえ、この法律の趣旨自体はやはり、当事者の人権が守られるように社会の理解を増進することなのです。この点を忘れると、LGBTQの人たちの人権保障に反対する側の思惑通りになってしまいかねません。松岡さんや遠藤まめたさんのこちらの指摘、及び国会での政府答弁は重要だと思います。


保護者や地域住民が反対しているという理由だけで、LGBTQに関する理解を進める教育ができないということはないと確認できました。
こちらのNHKの解説委員の解説も、わかりやすくて説得力がありました。


まず大前提となる事実として、LGBTQ当事者の人たちというのは、人口の1割強いると言われていて、私たちの身近なところで生活しているのです。「自分の知り合いにはいない」という方もおられると思うのですが(うちの母もそうです!)、当事者が差別を恐れて隠さざるを得ないこともありますし、カミングアウトしておられる人であっても、出会う人にいちいち「私はLGBTQ当事者です」と名乗りはしません(多数派の人もいちいち、「私は、心と体の性が一致している異性愛者で、結婚しています/していません」と自己紹介しないのと同じです)。私たちの周りで暮らしている人たちは、私たちと同じ生活者であり、怖い人でもなければ、犯罪をしようとしている人でもありません。ただ、彼女・彼らの人権は大きく制約されています。そういう客観的な事実に立って、これからを考えられたらと思います。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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