かわらじ先生の国際講座~中国は国際秩序の破壊者か建設者か?!

中国では3月5日から13日までの日程で、わが国の国会に相当する全人代(全国人民代表大会)が開かれ、習近平氏が党・国家・軍のトップとして不動の地位を確立しました。要職も側近で固められ、現在69歳の習氏は「終身支配」への道を歩んでいるともいわれます。また、2023年度の国防予算が前年比7.2パーセント増の30兆5千億円に上ることも公表され、軍事超大国としての相貌が一段と強く印象づけられることになりました。東シナ海や南シナ海における軍事的プレゼンスの拡大、武力行使をも辞さないという台湾統一への野心、尖閣諸島周辺で頻発する海警局船の領海侵入など、中国の軍事的脅威はこれからさらに加速化しそうに思われますが、これをどう見ますか?

隣国である中国が「独裁体制」を固め、わが国の23年度防衛予算の約4.5倍に当たる国防費を計上し、軍備増強に努めているとなれば、日本も米国等との同盟をさらに強化し、対抗策を講じるのは当然との論理を否定するのは困難でしょう。否定しようにも、国民を説得できるような論拠を示すのは非常に難しいと感じています。
にもかかわらず、わたしは一方的な中国脅威論にずっと疑念を抱いています。2027年あたりの中国台湾侵攻説も、ひょっとすると米国政権のほうがその実現を望んでいるのではないかと勘ぐってしまいます。ロシアがウクライナで躓いたように、中国が台湾で大失態を犯せば、国際社会における中国の威信は失われ、当面米国の覇権は揺るがないからです。
そもそも中国は国際紛争を望んでいるのかどうか。この点でわたしは中国に、ある程度の信頼感があるのです。中国は世界中に軍隊を配備したり、他国で戦争をしたりしません。米国やロシアのように、アフガニスタンやイラク、シリア等々で都市の破壊を行いません。意外と平和的なのです。わたしには中国に対する歴史的な信頼感もあります。たとえば琉球(今の沖縄)に対しても、中国の王朝はその気になれば併合する機会は過去にいくらもあったでしょう。しかし朝貢関係を結び、中国に恭順を示せば、それ以上の支配を求めませんでした。
わたしは南西諸島に配備される自衛隊が、古代の「防人」のように見えます。防人は、7世紀に白村江の戦いで唐・新羅軍に敗れた日本が、追撃を恐れ、北九州に配備した当時の防衛軍ですが、結局、中国大陸からはだれも日本に攻め込んできませんでした。第二次大戦中も、攻め込んだのは日本であって、中国軍が日本本土を攻撃することはありませんでした。中国軍が攻めてくるというのはわれわれの妄想なのではないか……。

しかし現代の中国は違います。海軍も海洋進出を目指し着々と準備を進めているではありませんか?

中国が世界平和のためというより、自国の利益(国益)のために行動しているのは確かです。これはどの国でも同じことです。しかし、中国の意図はどうであれ、その行動をみれば、国際秩序の形成に向けて貢献しているのも事実なのです。その方面に関しても、世論やマスコミは中国の「邪心」を疑い、なかなか正当に評価しようとしません。われわれはもっと客観的に事態を受け止める必要があるように感じます。

具体的にはどのような「貢献」ですか?

全人代の最中の3月10日、サウジアラビアとイランが外交関係正常化で合意しました。中東情勢を転換させるこの歴史的な合意は、中国が主導したものでした。昨年12月、習国家主席がサウジアラビアを訪問し、今年2月にはイランのライシ大統領が訪中するなど、中国を軸に、今まで覇を競ってきたサウジアラビアとイランが和解する機運が高まっていたのです。こうした中東情勢の安定化に向けての橋渡しは、従来この地域に最も関与してきた米国でもなし得なかったことです。
習近平氏は昨年4月、「グローバル安全保障イニシアティブ」を発表しましたが、そのポイントは、内政に干渉せず、各国の社会制度を尊重した上で、共通の安全と平和を打ち立てようとする点にあります。

これは民主主義という普遍的価値観の勝利を目標とする(つまり中国の目からすれば内政干渉を企図した)米国の安全保障構想とは一線を画します。どちらが正しいのかという議論はさておくとして、今回のサウジ・イランの外交正常化は、中国によるイニシアティブの成功例と位置づけられるのでしょう。

他にはどのような事例が挙げられますか?

ウクライナ戦争への和平にも乗り出そうとしています。中国外交部は2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する文書を公開し、12項目の提案を行いました。ロシアの立場を追認しているともとれ、中立的な内容とは言えないものの(現にウクライナのゼレンスキー大統領も「いくつか同意できない項目がある」と述べました)、同日の記者会見でゼレンスキー氏は、中国政府の提案について協議するため、習近平国家主席との会談を計画していると表明したのです。

われわれは、中国の国際秩序の「建設者」としての側面も直視し、それを全否定するのでなく、協力できるところは協力するくらいの度量を持つべきではないかと考えます。全人代でも中国は国内経済の厳しさを認めています(2023年の実質GDP成長率目標も前年の目標より0.5ポイント引き下げ、5%前後に設定されました)。現在の中国は、国際的な対立よりも経済的安定を望んでいるのです。わが国としても、中国との関係を対立から和解へと転換するチャンスはまだあるはずです。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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