小学生頃(1980年代)のエピソードを2つ。
身近に妊婦さんがいると母が、「出産後、1カ月半ほどは眼を使ってはいけない。視力を失う危険がある」と私に話をしました。医学的には正しくはないのかもしれませんが、女性の身体が出産によっていかに傷つくかを示していたと思います。
もう1つは、橋田壽賀子さん作のNHK連続テレビ小説の「おしん」の一幕。第1子を出産した「おしん」が、休息もそこそこに働こうとするのを、泉ピン子さん演じる母が「産後は大事にしないといけない」と諭す場面がありました。赤ん坊が無事に生まれると、皆が安心してしまうけれども、産後こそ大事にしないといけないということが、小学生の私にも印象に残ったのでした。
実はちょうど、甥っ子が産まれたばかりなのです。京滋方面中心に大雪が降った翌朝に、義妹は(タクシーが捕まらないので)救急車で運び込まれ、2日がかりで出産。母子ともに無事ですが、特に赤ちゃんの方は少し心配かもしれない所見もあり、経過を見守っているところだそうです。元気に退院して、早く会いたいなあと思っています。
そんな中、Twitterのタイムラインを賑わしていたのがこのニュース。
ちょ😇 まだ「産休」や「育休」を「おやすみ=暇がある」と勘違いしている人おるんや😇 育休中は育児してるんよ……休みなんてあるかいな。育休中に学位て😇 育休も学位もどっちも舐めてるやろ😇😇😇
■賃金上昇に向け 産休・育休中の“学び直し”を「後押し」岸田総理 https://t.co/3ddHH9lHi4
— あかたちかこ (@akatachikako) January 27, 2023
1日赤ちゃんの育児した事ありますか?産休育休中の人は子どもとダラダラ過ごしてるとでもお思いか。産休・育休は休みではありません。想像以上に超多忙です。睡眠や食事も十分に取れません。当然ですが、リスキリングする時間などありません https://t.co/yPVgqiX8TJ
— ふらいと(今西洋介)@新生児科医・小児科医 (@doctor_nw) January 27, 2023
産休・育休は「休み」ではなく、命を護るフルタイム労働の「繁忙期」。それをしていない・妻に任せてきた人達だからこそ、「休みで暇なら学び直しを」という非現実的な問答になる。男性の育児参画と女性の政治参画を放置してきた結果、このような前時代的な発想に。 https://t.co/I3oDn0fhUT
— 竹端寛『家族は他人、じゃあどうする?』7月19日発売 (@takebata) January 28, 2023
自民党の議員(男性)の質問(産休・育休がとりづらい状況を改善するために、産休育休中のリスキリングや学位取得を促してはどうかという提案)に岸田総理が大変「前向きな」答弁をしたとのことです。育児の初期は天手古舞状態なのに、リスキリングや学位取得なんてできるわけがない、子育てをしたことが無い男性が考える少子化対策は的外れすぎる、そんな批判が溢れています。子育ての大変さも、産後の女性の身体の疲弊も、どちらも全く理解されていないことがよくわかります。
実は年末に弟に会った時に、「妻を休息させたいから(自分が)産休をとる」ということが、ほぼ全く認められない状況だという話を聞いたのでした。制度が、「父親が産休を取るには、母親が働いていないといけない」という建付けになっている(父親が育休を取らないなら、産後の母親が家事と育児をフルにやることが前提になっている)とのことで、私もそこまでは知らなかったので驚きました。
でもいったい、どうしてこういうことになるのでしょうか?
「子育てをしたことが無い人だから…」ということはよく言われます。実際に、今回の岸田答弁に対しても同様です。でも、ちょっと待ってください。私も、出産や子育てをしたことはないのですが…。
だから確かに私には、「言われてはじめて気づくこと」は少なからずあります。けれども、子育て中の女性の院生や若手研究者の話を聞きながらときどき思うのは、「(聞けば)私でも理解できることが、どうして一緒に暮らしているはずの夫氏に理解されないのか?」ということだったりします。
岸田総理にもお子さんがおられるわけですが(ご長男のことが時々ニュースになりますね)、産褥期の妻さんのことは忘れてしまったのでしょうか? 実際のところ、女性の体力も人それぞれで、中には「産後1週間で学会発表をしています」という人も知っています。岸田総理の妻さんは、体力に恵まれた方だったのかもしれないですね。それはそれで、結構なことだと思うのですが、そんな女性はごく少数です。
「聞く力」に自信があるという岸田さん、いったい誰の話を、どんなふうに聞いているのでしょう?
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