かわらじ先生の国際講座~岸田外交をどう見るか?

今年は日本がG7の議長国で、5月には「広島サミット」を主催します。このサミットを前に、7ヶ国の結束を図るため、岸田首相は1月9日~15日までG7メンバーであるフランス、イタリア、英国、カナダ、米国を歴訪し首脳会談を行いました。なお、ドイツについてはショルツ首相と日程調整が出来なかったため、今回は訪問しませんでした。この一連の首脳会談をどう評価しますか?

今回の欧州・北米訪問の意義や成果に関しては、岸田首相自らが総括し、記者団の質問に答えていますので、公式的な見解は以下をご参照ください。

わたし自身の感想を一語で述べれば、軍事的結束の強化が主目的の歴訪でした。むろん、その背景には欧州におけるウクライナ戦争、アジアにおける中国の軍備増強と北朝鮮の核・ミサイル開発があります。こうした軍事的緊張の高まりのなかで、「インド太平洋」をキーワードとして、アジアと欧州の安全保障問題がリンクし、日本がいよいよNATOと一心同体になりつつあることが鮮明になったと思われます。

具体的には各国とどんなことが話し合われたのですか?

まずフランスのマクロン大統領とは、今年前半に双方の外務・防衛の閣僚会議(「2+2」)を開催することを決め、共同軍事演習を含め、インド太平洋地域における防衛協力の深化を約束しました。
イタリアのメローニ首相とは、両国関係を「戦略的パートナー」に格上げすることで一致し、さらに外務・防衛当局間の協議を立上げ、安全保障分野での連携を更に推進する点でも一致をみました。
英国のスナク首相とは、両国軍部隊の大規模で複雑な共同訓練を可能とする「日英部隊間協力円滑化協定」を調印しました。英政府はこの協定について、「日英同盟を締結した1902年以来、両国にとって最も重要な防衛協定だ」と強調しました(『京都新聞』2023年1月12日)。なお、日本、英国、イタリアの3ヶ国は、昨年12月9日、次世代戦闘機の共同開発を行うとの共同首脳声明も発表しています。
カナダのトルドー首相とも「東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みに強く反対すること」で一致しました(首相官邸HP)。これが中国を念頭に置いた発言であることは言うまでもありません。カナダは遅ればせながら、昨年11月に「インド太平洋戦略」を発表しました。今まで中国に対する対応には慎重だったカナダが、ようやく「対中国包囲網」に加わったわけです。今回の首脳会談で岸田首相は、このカナダの決断を歓迎したのでした。

そして一連の会談の仕上げが、米国のバイデン大統領との首脳会談でした。報道によれば、岸田首相は日本が「反撃能力」を含む防衛力の抜本的な強化を定め、防衛予算の大幅増額を決めたことを説明し、バイデン大統領はこれを大いに歓迎し、米国も日米同盟の責務を果たすことを確約したそうです。

殊に印象的だったのは、バイデン大統領が非常に手厚く岸田首相をもてなしたことです。首相がホワイトハウスに到着すると、玄関前でバイデン大統領が自ら出迎え、首相の肩に手を置いて親しく会話をしました。昼食会でもコース料理を振る舞いました。バイデン氏が外国の要人をこれほど厚遇するのは異例とのことです。また、会合の冒頭でも、バイデン大統領は岸田氏に対し「あなたは真のリーダーであり、真の友人だ」と手放しでたたえました(『讀賣新聞』2023年1月15日)。こうしたバイデン氏のパフォーマンスを額面通りに受け取っていいのでしょうか?その真意は何なのでしょう?

日本国内における岸田政権の支持率が危機的なほど低落していることは、米国もよく承知しています。だからこそ、バイデン氏は岸田首相を精一杯支えてやろうとしているのでしょう。米国の加勢は、日本の政界に対し影響力が大きいはずです。

なぜバイデン氏が岸田氏を支えなくてはならないのですか?

岸田首相が米国の国益にかなう人物だからです。彼は米国にとって故安倍元首相以上に都合がいいと見ているのでしょう。ことによると歴代首相のなかで最も米国に役立つ首相だと思われているのかもしれません。つまり米国が欲することを率先して実現してくれるのが岸田首相なのです。

もうすこし具体的に説明してもらえますか?

日米首脳共同声明には次のように述べられています。「インド太平洋は、ルールに基づく国際秩序と整合しない中国の行動から北朝鮮による挑発行為に至るまで、増大する挑戦に直面している。欧州ではロシアがウクライナに不当かつ残虐な侵略戦争を継続している。我々は世界のいかなる場所においても、あらゆる力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対する。」
ところでここに述べられている「国際秩序」への挑戦とか、「一方的な現状変更の試み」とかいった文言は何を指しているのでしょう。簡単にいえば、米国の覇権を中国が脅かし、中国が覇権国家としての地位を米国から奪おうとしているということです。中国の軍備増強や北朝鮮による弾道ミサイルの発射は、直接日本に向けたものでなく米国に対する行動です。ですから、米国が覇権国としての地位を守るためには、自ら身銭を切って抵抗せねばなりませんが、財政的にもその余力はありませんし、覇権争いによって自国民を傷つけることは望んでいません。

それを日本が肩代わりしていると?

そうです。本来は米国をターゲットにした中国や北朝鮮の軍事行為を、米国にとって都合のいいことに、日本は自国への脅威だと受け止め、そのために防衛予算を倍増し、「反撃能力」を持ち、米国産のトマホークなどを大量に購入し、さらには欧州諸国にも働きかけ、(本来は米国がすべき)まとめ役を買って出てくれているわけです。しかも日本を守ってくれていると米国に感謝までしているのです。本当は日本が米国の身代わりになって軍事的脅威にさらされているのに……。故安倍氏を含め、いままでの首相は親米路線をとりながらも、中国やロシアとの外交にもそれなりの力を注いできました。一種のバランス感覚を働かせていたのです。しかし岸田首相はそうした配慮すらかなぐり捨て、見ようによっては日本の国益以上に米国の国益を優先しているのではないか。今回の一連の首脳会談をみて、そのような危惧を抱きました。
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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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