宗教2世と霊的虐待(1)

7月から憲法の解説を書かせていただいておりましたが、その間に大きな出来事がありました。
私が、「宗教2世」という言葉があると知ったのは、2-3年前だったかと思います。NHKのニュースの特集で見たことがあり、「私も当てはまるといえば当てはまるな」と思ったのでした。
宗教2世の一般的な定義は、「カルト宗教」と呼ばれるような宗教に入信した親の子どもたちのことだと思いますが、実態はそれなりに多様です。また「カルト宗教」も様々な形があり、新宗教だからカルトとは限らず、伝統宗教でも特定の寺院や教会がカルト化していることもあります。
京都府立大学准教授で、ご自身も当事者の横道誠さんの解説が参考になると思います。


私の場合、母方の祖母がある教団に入信し、最終的には全財産をお供えしました。私はその孫なので、2世ではなく3世とも言えますが、私は祖母の養女でもあります。ただ、育ててもらってはいません。それどころか、会話をしたこともありません。寝たきりの床についていた姿を、おぼろげに覚えている程度です。4歳か5歳の頃、祖母の死の直前に養子縁組をしました。祖母は自分の実家の苗字を、私に継がせたかったのでした。私は、宗教2.5世というところでしょうか?

安倍首相の銃撃事件から1カ月ほど、ずっと心がザワザワ、ワサワサしていました。容疑者の置かれていた状況は、私にとっては他人事ではなかったのです。他方で同居している母にはその自覚が全くなく、状況をよく知らない同僚などに話しても、手ごたえのある反応があるはずもない。そんな中、要介護の母を連れて帰省するために、お盆前に弟がヘルプに来てくれました。その弟が「安倍さんを撃った容疑者の話、僕ら、他人事じゃないやんな」と言ってきて、「やっぱりそう思うよね!」と思って、それでようやく落ち着いた気分になりました。

さて私の場合は結果的に、いわゆる「普通の社会生活」を送ることができています。それでも振り返ると、危ないことは少なからずあったように思います。また、「お金で何とかなること」はクリアしてきましたが、「お金で何ともならないこと」については、傷も負ってきたと思います(坐禅を始めた理由は、実はここにあります)。

私の場合、父が当該宗教が大嫌いな人であったため、「両親ともに信者」である2世とは育った環境は大きく異なっています。どうしてそんな父と、母が結婚したのか、どうして祖母が(23人も孫がいる宗教儀式中の家族を見る人のイラストのに)父の娘である私を養女に望んだのか、経緯は省きますが、少々コミカルに思えます。

結果的に私は、当該宗教の儀式等からは物質的には離れたところで育ち、信者になることや献金することを、直接に強制されたことはありません。儀式への参加も、「祖父母の法事相当の行事に出席する」程度でした。伯父・伯母は、両親には厄介なことを言ったらしいですが、私に直接、何かを言うことはありませんでした。
他方で私は、父との結婚によって当該宗教とは物質的には距離を置くことになったが、心理的には(現在に至るまで)影響を受け続けてきた母を経由して、「宗教2世(3世)アルアル」な体験を積み重ねることにもなりました。「宗教2世問題」と言われる現象の、ド真ん中にある人達に比べると、私の経験などはぬるいものだろうと思います。しかし、そんな私だから伝えられることもあるような気もして、宗教2世問題について、しばらく書かせていただこうと思ういます。

なお、今回は触れることができませんでしたが、宗教2世問題で深刻なのは宗教的虐待だと思います。具体的にどういうことなのか、こちらの記事をぜひお読みください。

 Yahoo!ニュース 
カルト研究者「親による信仰の強制は『児童虐待』に含めるべき」2世支援が乏しい現...
https://news.yahoo.co.jp/articles/d0b280be222e065e618187234f785e7ce7cdba0c
安倍元首相の銃撃事件で、容疑者は動機について、母親が「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」にのめり込み、家庭が崩壊したことなどを挙げている。

追記:ちなみに全く自覚のなかったうちの母ですが、つい先日にNHKのクローズアップ現代で、元首相を銃撃した容疑者の母親が、「3人の子どもを家に置いたまま教団のところへ行ってしまい、何日も帰ってこなかった」、「(伯父が様子を見に行くと)お金もなく、食べ物もなく、冷蔵庫の中も空っぽだった」という証言を聞いて、「あれ、お祖母ちゃんと同じやね…」と言っていまして、やっと気づいたか…と思っています。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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