「日本国憲法」5回シリーズの最後は、第三章 国民の権利及び義務から第27条と第28条です。第27条は勤労の権利と義務、勤労条件の基準及び児童酷使の禁止について、第28条は勤労者の団結権及び団体行動権について謳っています。自民党の改憲草案では第28条に「公務員については全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない」という二項が新たに加えられています。文書改ざんなど理不尽な指示をされた時に公務員を守ってくれる団体があると都合が悪いということでしょうか。労働者に認められた権利について確認しておきましょう。朗読はフリーアナウンサーの塩見祐子さん、イラストはかしわぎまきこさん、解説は関西勤労者教育協会副会長・中田進さん、動画の再生時間は1分7秒です。引き続き第25条はこちら、第13条はこちら、第9条はこちら、前文はこちらからお聞き下さい。
私たちにとって、働くとはどんな意義があるのでしょうか。まず生産やサービスなどの仕事で社会に役立つという意義です。役立つためには、知識や技術が求められます。医療・介護・保育・教育などの仕事の場合は特に「愛」が求められるのでは。しかし、初めから全て身についているわけではありません。働く中で先輩や仲間や多くの人から学び努力して成長できます。そして働くことで収入が得られ、自分や家族が生活できます。役立つ喜び、成長する嬉しさ、生活できる誇り・・この3点セットが「働きがい」の要素ですね。
ところが、私たちは資本主義社会に生き働いています。雇い主から利潤追求のため賃金が下げられたり、長時間労働を強いられたり、人が減らされたりします。人類は長いたたかいのなかで「人間らしく働き生きる基準」を獲得してきました。国民には「この基準」のもとで人間らしく働く権利があり、国家は勤労の機会を保障する義務があります。仕事を失った人や仕事に就けない人を「職業安定法」や「雇用保険法で」支援する制度があります。27条の第二項にある「賃金・就業時間・休息その他の勤労に関する基準」が具体的に示されているのが労働基準法で、パート・アルバイト・派遣など非正規の人にも適用されます。第一条は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」とあります。１日８時間、有給休暇は６ヶ月継続勤務・８割以上の出勤なら１０日、次年度から加算など明記されています。こうした基準が守られているかを指導・監督し、使用者が違反した場合には是正勧告や告訴をする機関として労働基準監督署があります。労働条件は労使対等の立場で「決定」とありますが、個人で交渉するのは大変です。資本主義の歴史は労働者のたたかいの歴史で、イギリスで誕生した労働組合が世界に広がり国際労働機関ILOが誕生し国際的なルールが定めらています。
憲法２８条はまさに、労働者が労働組合を組織し、団体交渉をし、ストライキなどの団体行動に立ち上がることのできる権利（労働三権）を保障しています。「すべて国民」でなく、この条文だけは「勤労者」からはじまります。労働組合の力でストライキをしても逮捕されたり、罰金を払わされることはありません。「残業手当」の未払いや不当な解雇や賃金引き下げ、思想差別などとたたかい勝利してきました。
残念ながらいま労働組合に組織されている労働者は１７％。1985年からはじまった労働者派遣法などににより、非正規労働者が激増し、たたかう力が大きく後退しました。男女差別はひろがり女性の生涯の賃金は１億円も格差が。日本の賃金は３０年も上がらず、長時間労働や過度のストレスで命を奪われる人も少なくありません。使い捨てられた人々が自分に自信をなくし人生や社会に希望が持てなくなっています。自分一人ぐらい投票にいってもかわらないと大切な選挙権を放棄する若者も多く、「メリットがない」と思い労働組合に加盟しない労働者が増えています。
マスメディアや学校教育で労働者と労働組合の権利や憲法が保障している権利を詳しく伝えていないいま、ともに憲法を学習しましょう。憲法の精神を生かし一人一人を大切にする政治を実現しましょう。たった一度の人生です。自分らしく働き輝いて生きていきましょう。