桜が散り、つつじや花水木など様々な花が町を彩るようになりました。わたしにとっても最も好きな季節の到来です。俳句は命を詠む文芸だと言われます。皆さんの投句からも生命の息吹が伝わってきました。
◎夫植えし畑のいちごの酸つぱさよ ちづ
【評】「酸つぱさよ」という詠嘆に弾む心が表れています。「植ゑし」と表記しましょう。
〇菜の花や旗目印に釜巡る ちづ
【評】「窯」の表記ミスでしょうか。「旗に従ひ窯巡り」でどうでしょう。
△~〇菜の花の香る街道深呼吸 作好
【評】俳句でよく「深呼吸」と書く人がいますが、あまり感心しません。自分のことを述べるよりも、街道の様子をスケッチするなど、客観写生に徹しましょう。それが俳句の高みに至るための第一歩となります。
△畠に居て何も無くても今日は春 作好
【評】俳人とは、普通の人が何も無いと感じるところに何かを見出す人のことです。何かを見つけてください。そこから俳句がスタートします。
△土ふるや物干し台の空雲 美春
【評】「土ふる」でも間違いではないのですが、ふつう「霾る」と表記します。または平仮名で「つちふる」としたいところです。「空雲」はどう読めばいいのでしょう。とりあえず「つちふるや物干し台に空の壜」としておきます。
〇手を取りて椿まつりの坂のぼる 美春
【評】「椿まつり」が素敵です。仲睦まじさも伝わってきます。
◎目借時地震雲よと指差さる マユミ
【評】地震雲などといわれると眠気も吹き飛びますね。ユニークな句です。
〇まろやかな手作りコーラ夏近し マユミ
【評】手作りコーラとはおもしろい。炭酸少な目なのですね。季語でもっと冒険してもよさそうです。
△根尾谷の空駆け抜くる花吹雪 妙好
【評】根尾谷の薄墨桜は有名ですね。「花吹雪」という季語自体から、すごい勢いで無数の花びらが飛んで行くことがわかりますので、「空駆け抜くる」は言う必要がありません。根尾谷らしさが伝わるものをもっと細やかに写生してください。
〇佐保姫の萌黄の裳裾ひるがへり 妙好
【評】萌黄色の草木が風に吹かれる様子を擬人化して述べたのですね。結構でしょう。
△~〇曇天や地獄の釜の蓋の咲く ひろ
【評】長い季語なので「地獄の釜の蓋」を使いこなすのは至難ですね。これは地面に張り付くように咲く花ですから、空との取り合わせがどうなのか。視線を下方に向けてもう少し丁寧な写生をしてほしい気がします。
〇洋館の窓開かれて花水木 ひろ
【評】花水木は洋館に似合いそうですね。中七にしっかり切れが入ると、さらにめりはりのある句になると思います。「洋館の縦長窓や花水木」など。
〇老桜胴吹きの花先に愛づ ゆき
【評】「先に愛づ」と自分のことを言うのでなく、花そのものを客観的に詠むとさらに俳句らしくなります。たとえば「胴吹きの花のいろ濃し老桜」など。
△~〇供華持ちて友に供へし若葉雨 ゆき
【評】「持ちて」と「供へし」という2つの動詞があるために、やや間延びした句になっています。「供華抱きて友の墓へと若葉雨」などもう一工夫してみてください。
◎鉱物に鑿打つ少女わかば風 音羽
【評】美術部の生徒なのでしょうか。「鉱物」という無機的な言葉をもってきたところに新鮮味があります。それと対照的な柔らかな季語も効果的です。
△~〇ビニールの傘に降りつぐ桜蘂 音羽
【評】句としてはしっかりと出来ていますが、日常感覚にとどまっており、まだ詩には高められていないように感じました。
〇野面積古木の花の散りやまず 織美
【評】滋賀県坂本界隈の風景を思い浮かべました。味わいはやや淡泊ですが、すっきりとした仕上がりの句です。
△~〇桜蘂集めて染むるコースター 織美
【評】もう染めてあるのなら「染めし」と過去形にしたほうがいいかもしれません。どんなふうに染めるのか、その工程を描写できると秀句になりそうです。
◎母逝きて九年の庭や杉菜生ふ 万亀子
【評】しみじみとした情感が伝わってきます。句形も申し分ありません。
〇藤古木大蛇の如くからみけり 万亀子
【評】たしかに藤はそのような木ですね。素直に詠まれた句です。
〇鰐口の鳴るに散りけり山桜 徒歩
【評】構図のしっかりとした句です。中七の表現はいろいろなバリエーションが考えられ、悩みどころですね。「音色に散れり」「鳴れば散るなり」等々、もうすこし推敲の余地がありそうです。
〇~◎臍の緒を金庫の奥に目借時 徒歩
【評】とても不思議な味わいの句です。「臍の緒は」でどうでしょう。
〇でで虫に鼻近づける仔犬かな 白き花
【評】「でで虫」と「仔犬」という愛らしいものの取り合わせで、気持ちが解れます。
△~〇田の畔に息吹の証仏の座 白き花
【評】吟行で句友に「仏の座」を教えてもらい、わたしも挑戦してみるのですが、なかなか納得できる句ができません。「息吹の証」が観念的で惜しい。「田の畔に息づく色や仏の座」など、もうすこし具体性をもたせて詠むとさらに良くなりそうです。
〇大屋根を越え来たるらし花の塵 多喜
【評】まず、何の大屋根かわかるといいですね。また、俳句は「断定の詩」ですので、「らし」とせず言い切ってしまいましょう。一例として「花の塵寺の大屋根越えて来し」。
〇~◎青麦や少年担ぐ米一斗 多喜
【評】伸び伸びとして、爽やかな句です。「麦」と「米」が似たもの同士で少々気になりますので、季語をもうすこし考えてみてください。
〇庭の薔薇色香を放ち蜂誘ふ 千代
【評】「色香を放ち」まで言ってしまうと、読み手は鑑賞の余地がなくなってしまいます。「薔薇園の薔薇向き向きに蜂誘ふ」など。
△~〇土手に摘む蓬を茹でて草餅に 千代
【評】全体的に説明調ですので、切れを入れましょう。「草餅を作るや土手の蓬茹で」。
〇御影供や小寺に貰ふ袋菓子 維和子
【評】「御影供」(みえいく)が季語で、空海の忌日である3月21日に、その画像をかけて行う法会のこと。4月21日に行うところもあるとか。だいたい寺であることは想像がつきますので、そこをもうすこし具体化させ、「尼僧に貰ふ」などとするとさらに情景がはっきりするように思います。
△~〇大名と家臣の墓地や青葉雨 維和子
【評】やや描写が大雑把で、情景が見えてきません。大名と家臣の墓がどんな具合に建っているのか、あと一つ具体的な描写がほしいところです。
△長良川エメラルドなる鵜の瞳 久美
【評】鵜の目がエメラルドグリーンであることは言い古されていますので、句材にはなりません。もっと別の角度から鵜を観察してください。
△~〇残雪や四十六度の濁河湯 久美
【評】下呂の濁河温泉ですね。俳句ではよほどの出来栄えでないかぎり、数字を入れた句は成功しません。「四十六度」という知識ではなく、感覚で勝負してほしいところです。
〇かなへびや太き尻尾の重たかろ 智代
【評】「重たかろ」とかなへびに呼びかけているのですね。おもしろい句ですが、「かなへびの太き尻尾の重たさう」と写生句にするのも手です。
△~〇守宮いぬ半身のぞく戸の隙に 智代
【評】「いぬ」と「のぞく」がやや煩瑣な感じです。「戸の隙に半身のぞかす守宮かな」くらいでいかがでしょう。
〇花吹雪浴びて湯の町通り過ぐ 慶喜
【評】湯には浸からず通り過ぎたのですね。飄々とした感じが魅力です。
〇~◎遊廓の跡桜蕊降りつげり 慶喜
【評】妖艶な雰囲気が伝わってきます。「桜しべ遊郭跡に降り継げり」とするのも一法でしょうか。
〇~◎春耕や土に朝日を溶かし込め 永河
【評】早朝からの農作業なのですね。滋養たっぷりの土を連想しました。春耕なので「土に」は省略できそうです。「春耕や朝の光を溶かし込み」と比べてみてください。
〇~◎しあはせの色とりどりに花つつじ 永河
【評】俳句では「しあはせ」のような主観的な語彙は使わないのが原則ですが、毎日ウクライナ情勢を追っているせいか、しみじみとした思いでこの句を鑑賞しました。細見綾子にも「チューリップ喜びだけを持つてゐる」という句がありましたね。どうぞこのままの形で残してください。
次回は5月17日(火)の掲載となります。前日(16日)午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。