こころ野便り~農業について思う。チャレンジ編

畑に有機物を投入して土作りを進めながら徐々に農薬の使用を減らし、そのうち農薬から縁が切れると言う目論見は外れた。農薬への耐性や新しい病害虫の出現、また野菜の見栄えへのこだわりなど、使用理由には、事欠かない。本当に辞めたいなら使わないと言う決断をしなければならない。
弟の一件で自分を取り戻してゆく姿を見た。その背後には、両親の様々な柵やプライドに勝る子を思う強い気持ちがあった。それを見て私も自分らしく生きようと北海道で農業にときめいていた時の初心を思い出し、農業界ではタブー視されていた無農薬栽培にチャレンジしようと決意した。折しも、結婚、子供の誕生、新しい取引先の登場、自然出産を手掛けられる助産婦さんとの出会い等、私を取り巻く環境は、それまでとがらりと変わっていた。父も「阿呆な事を言うな」とは、もう言わない、むしろ積極的に手伝ってくれた。そして、必然的有機栽培だった頃の曽祖父の話を聞かせてくれるようになった。それには、苦労話も多いが、色々と参考になる事も沢山あった。父との会話が面白いと思うようになっていた。33歳になっていた。自分の反抗期は、その辺で終わったのかもしれない。
農薬の使用をプツリと止めた。使用途中の農薬の処分を農協に依頼したが前例がないと難色を示めしながらも、専門の業者を探してくれた。それ以後定期的に期限切れ農薬などの回収がなされるようになった。それまで使っていた化学肥料は、未だに倉庫の片隅に積んだままに成っている。使い切ってから止めれば良かった。
突然農薬の使用を止めた畑は、それまで農薬で抑え込んでいた病害虫の反撃で散々な目にあった。まともに収穫出来るのは、寒さが増し始める頃になってからだ。季節に助けられた。今まで季節の事など念頭に無かった事に気付いた。無農薬だ、有機栽培だと言いながら余りにも自然の事を知らなさ過ぎた。収入は、激減したが、時間が出来た。

京滋有機農業研究会 会長の田中真弥さんが無減農薬野菜などの宅配サービスの会員向けに連載しているコラム「こころ野便り」を当サイトにも掲載させて頂いています。前回はこちら


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