新しい年が始まりました。本年もよろしくお願いします。
去年の4月に、日本の報道の自由をめぐる記事を書きました。
民主主義社会の基盤である報道の自由および「権力の番犬」としてのメディアの役割を鑑みたときに、心配になるようなニュースが年末に浮上しました。
読売新聞社と大阪府が包括連携協定を結んだのです。自治体が企業と包括連携協定を結ぶこと自体はよくあることなのですが、今回は連携相手が権力の番犬たるべき新聞社であることが問題視されています。
ナニコレ……。読売社長「ご存じのように読売新聞はそんな柔な会社ではありません」って、そういう自信(過信)が危ない。 →吉村知事「制限、優先的扱いない」大阪府と読売新聞大阪本社が包括連携協定 https://t.co/T0nvmqIw22
— Shoko Egawa (@amneris84) December 28, 2021
この話は少しずつ韓国にも伝わっており、私もどんなことかと聞かれもしたが、この記事によって雰囲気と論点、懸念が良く整理できた。長いが読みやすいのでぜひ。
読売新聞と大阪府との包括協定で問われるジャーナリズムの役割(立岩陽一郎)#Yahooニュースhttps://t.co/NJkcY7htYT
— 徐台教(ソ・テギョ, 서태교) (@DaegyoSeo) December 28, 2021
そもそも日本では政治家と記者が定期的に一緒に食事をするなど、権力とメディアの距離が近すぎる状態にあります。そしてそのことは、海外からも懸念を持たれています。そうであるにもかかわらず、包括連携協定というのはどうなのでしょうか?
読売新聞側は問題ないと言っていますが、そんな簡単なこととは思いにくいです。番犬としての役割を抑制しようとする働きは、権力側からの直接的な介入によらなくても、日常的な雰囲気の中で生じます。
朝日は東京五輪スポンサーになったことを「報道は別」と正当化しました。読売は包括連携協定を「報道は別」と正当化するでしょう。同じ穴のむじなです。大手新聞社は横並びで国策五輪のスポンサーになった時点で報道機関を名乗る資格を失いました。五輪スポンサーの総括なしに新聞再生はありません。 https://t.co/7Bss8Pa507
— 鮫島浩✒️政治ジャーナリスト SAMEJIMA TIMES (@SamejimaH) December 28, 2021
読売新聞は報道機関としての一線を明らかに越えました。しかし朝日新聞はじめ全国紙は読売を批判できないでしょう。なぜなら全国紙は横並びで東京五輪スポンサーになり国策イベントに加担したからです。すでに新聞ジャーナリズムは壊れている。読売も朝日も50歩100歩です。 https://t.co/kz5s4KQ8mo
— 鮫島浩✒️政治ジャーナリスト SAMEJIMA TIMES (@SamejimaH) December 28, 2021
ちなみに、ローソンと大阪府が包括連携協定を結んだ結果、こうなったそうです。
包括連携協定に最初に疑問を持ったのは2019年6月、G20開催に合わせてコンビニが大阪限定商品を売り出し、ポスターに吉村知事の顔写真をでかでかと(商品よりはるかに大きく)使った時でした。「行政と企業の連携」「地域PR」の名目で、政治宣伝に利用されているのでは?とhttps://t.co/ONIMHv35ec
— 松本創 (@MatsumotohaJimu) December 28, 2021
そして実際に新聞でも。
「我々はそんなにヤワではない」と言っていたはずの新聞社の記事…↓
吉村洋文知事、休日の筋トレ姿を公開!たくましい筋肉に黄色い声殺到「カッコ良すぎ」「キャー!」https://t.co/GQh1XbpMc2
— 安田菜津紀 Dialogue for People (@NatsukiYasuda) December 30, 2021
【悪いポイント】
・「黄色い声」というジェンダーバイアスのかかった表現
・そもそも政治家を性的魅力で評価することのおかしさ
・特定政党の党首をそのような表現で持ち上げることのおかしさなど。
— 平河エリ / Eri Hirakawa『25歳からの国会』(現代書館) (@EriHirakawa) December 31, 2021
まとめるとこういうこと。
大阪府と包括連携協定というニュースが流れたのが2021/12/27
「市長選候補を電話世論調査で決める」と読売が報じたのが2021/12/30
「知事の筋トレ姿を公開」を読売が報じたのが2021/12/31— 塩見卓也 (@roubenshiomi) December 31, 2021
今後はどうなるのでしょうか。
大阪府と読売新聞大阪支社が包括連携協定。すでにコスト増(建設費が600億円増)が問題視されている大阪万博について、チェックするのではなく「開催に向けた協力」。 pic.twitter.com/JMXG1juh0k
— 武田砂鉄 (@takedasatetsu) December 28, 2021
なお個人的に気になるのは、教育への影響です。3年程前のことですが、ある大学の先生がご自身の教育実践を紹介しつつ講演をしているのを聞きました。その実践は、読売新聞社と提携をしているもので、学生は読売新聞を毎日読んで社会情勢や時事問題について勉強し、また社説を毎週(写経のように)書き写すということで、大変に驚きました。確かに読売新聞も含めて新聞は、社会情勢を学ぶには良い教材です。社説もまた、論理的な文章の作り方を学ぶのに良いものかと思います。しかし新聞を使う場合、他の新聞社の記事とも比較検討をすることは必須だと思います。それは読売であろうと、朝日であろうと、何であろうと同じでしょう。
大阪府で行われる教育に、今後どのような影響があるのか(ないのか)、注視する必要があると思います。
なお読売新聞については、こんな指摘もあります。読売だけがどうということではなく、メディアの記事というのは現在進行形の事象を扱うものであるため、書かれている内容の評価は流動的なことも多いわけです。だからこそ慎重な扱いが必要だと思います。
読売新聞の内部で何が起きているか。
大阪府や山口県下の自治体との包括連携協定に絡んで、この件も改めて考えてみるべき。
中国が脅威だからといって、事実と大きな乖離があると専門家に指摘されている内容の記事を出し続けているのであれば、それはプロパガンダだ。 https://t.co/aTBvSdAq0a— 柴田優呼 / Yuko Shibata @アカデミック・ジャーナリズム (@yuko_shibata_) December 28, 2021
〝大手メディアが政府の一部の意向に沿って記事を書くというようなことがあるとは、部外者の私には信じがたい。それでは報道機関ではなく広報機関と名乗るべきだろう〟
「発言捏造」で賞狙う?読売新聞「千人計画」特集を憂う(榎木英介) https://t.co/FZ1Wa7CO9T
— 高田昌幸 masayuki takada (@masayukitakada) December 28, 2021
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。