かわらじ先生の国際講座~民主主義サミットと台湾

米国はかねてよりバイデン大統領が主催する「民主主義サミット」を12月9日と10日の2日間、オンライン形式で開催すると予告していましたが、11月23日に招待リストを発表しました。招かれるのは110の国・地域ですが、そこに台湾が加えられたことから中国政府が反発を強めています。この問題をどう見たらよいでしょうか?

まず「民主主義サミット」(the Summit for Democracy)について解説しますと、この開催はバイデン氏が大統領に当選したときの公約で、米国務省のウェブサイトに2021年2月付で趣旨説明が掲載されています。


当初からバイデン氏は中国、ロシアなどを念頭に置きつつ、世界を「民主主義と専制主義の闘いの場」と規定し、民主主義陣営の結束と強化をめざす「価値観外交」を推進する意志を明らかにしていました。8月11日、ホワイトハウスはこの「民主主義サミット」の開催を改めて予告しましたが、ただしその段階ではまだ参加国は公表されていませんでした。台湾政府はすぐさま参加の意思を表明しましたが、米国は態度を明らかにしませんでした。早くから手の内を明かし、中国に妨害されることを危ぶんだのかもしれません。開催の16日前に全容を明らかにした恰好になります。
ちなみに、中国、ロシア、北朝鮮などが招待されないことは当然として、NATO加盟国であるトルコやハンガリーも招待リストから外されたことは興味をひきます。民政復帰後も軍主導の政権が続いているタイも招待されませんでした。他方、強権的な政権運営が何かと批判されているポーランド、ブラジル、フィリピンなどは招待を受けました。アメリカなりの政治的な思惑があるのでしょう。

米国は台湾を民主主義陣営の一員だと評価したわけですね?

はい。特に今年の夏以降、米国の台湾に対する肩入れは顕著になっています。6月には米上院の超党派議員団が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談していますし、11月にも米上下両院の共和党議員団と米下院の超党派議員団5人がそれぞれ別個に訪台し、蔡総統と会談を行っています。この延長線上に今回の「民主主義サミット」への台湾招待があると見ていいでしょう。台湾政府はこの招待への謝意を表し、台湾からIT担当閣僚のオードリー・タン(唐鳳)政務委員と駐米代表(大使)が参加することを明らかにしました。蔡英文氏自身の参加を見送ったのは、中国をあまり刺激しないための配慮でしょう。

これに対し中国はどのように反発しているのですか?

第一に、これは中国への内政干渉であるという批判です。台湾を自国の一部であると見なす中国としては当然の主張でしょう。第二に、米国の勝手な基準で「民主主義陣営」とそれ以外の間に線引きをすることは、世界に分断をもたらし、対立をあおるものであり、冷戦思考の再現だという批判です。
興味深いのは、中国が独自の民主主義観を表明していることです。12月5日、中国は民主主義に関する白書を発表し、「民主主義は多様で、そこに至る道は一つでない」と弁じ、中国は独自の民主主義を実現したと強調したのです。

中国も米国と同じ土俵に立ち、真っ向から民主主義論争に挑もうとしているようですね。ところで日本の岸田首相も、バイデン政権主催の「民主主義サミット」にオンライン参加する予定と聞いていますが、日本に期待される役割はあるのでしょうか?

民主主義が普遍的価値観であり、人権や思想・言論の自由が守られなくてはならないことを訴えるのはよいことです。しかし台湾問題に深入りし、中国をいたずらに刺激しないことが肝要だと思います。たしかに台湾も招待されましたが、110ヶ国・地域の1つに過ぎません。これは台湾問題に関する国際会議ではありません。
わたしは最近の岸田政権が安倍元首相の影響を受けすぎていないかと不審を抱いています。憲法改正や敵基地攻撃能力の保有などをやたらと強調し出しているためです。
その安倍氏ですが、12月1日、台湾で開かれた民間シンクタンク主催のシンポジウムにオンライン参加し、演説を行ったのですが、そのなかで「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある。この点を習近平国家主席は断じて見誤るべきではない」と述べたのです。

中国政府はただちに駐中国日本大使に断固たる抗議を行った由ですが、新聞報道によれば、日本の垂秀夫大使は、「台湾をめぐる状況について日本国内にこうした考え方があることは中国も理解すべきだ」と反論し、「政府を離れた方の発言については政府として発言する立場にない」と指摘したとのことです(『日経新聞』2021年12月2日夕刊)。
しかし、いくら「政府を離れた方の発言」だとはいえ、元首相であり国会議員である人物の発言として、これほど無責任で罪深い言動はありません。「有事」とは戦争の別名です。つまり安倍氏は、台湾が戦争になれば、日本も戦争をするぞと中国側を恫喝したわけです。一体日本国民のだれが安倍氏に勝手に戦争を始める権限を与えたのでしょう。台湾における戦争を日本の戦争として引き受けるなどと現職の政治家が断言することは決して許されません。これは日本国民に対する背信行為です。これがわが国であまり大きな問題にならないことが不思議でなりません。こんな調子で岸田首相までが「民主主義サミット」で愚かな発言をしなければよいがと案じています。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもある。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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