「カナリア俳壇」45

日ごとに春らしくなってきました。コロナ禍はまだまだ予断を許しませんが、どこか気持ちも明るくなります。皆さんの作品からも心の弾みが感じ取れました。では早速、ご投句順に見てゆきたいと思います。

◎硬き水なだめなだめつ紙漉けり     ひろ

【評】季語は「紙漉く」で冬。「硬き水」がこの季節によく合っています。職人さんの気持ちになりきって作った一句ですね。たいへん結構です。

○切支丹腑分けの地てふ木瓜の花     ひろ

【評】「てふ」は口語だと「~という」で、連体修飾語です。中七でしっかり切りましょう。「地とや」「場所や」などもうひと工夫してください。

△目覚かな二月半ばの別れ雪     蓉子

【評】「二月」も季語、「別れ雪」も季語。この季重なりはよくありません。また、切れ字「かな」を上五に置くこともお勧めしません。上級者は時折アクロバティックにこのような試みをしますが、あくまでも例外です。「目覚むれば名残の雪の蒼みをり」など。

△寒き日はコーヒー濃い目に暖まり     蓉子

【評】中七が八音で字余りです。中七の字余りは厳禁です。下五を連用形で止めるのも不可。きちんと終止形で収めましょう。「コーヒーを濃いめに淹れし余寒かな」など。

△~○庭で穫る八朔割りてジャムとせり     美春

【評】上五が説明的ですので、「穫る」という動詞を消しましょう。たとえば上五を「わが庭の」とすれば全体にすっきりすると思います。

△石垣の高処で添ふる恋の猫     美春

【評】一読、句意がすんなりとれませんでした。「石垣のうへで寄り添ふ恋の猫」でいかがでしょう。

△紅梅を賞づる母の目細きなり     多喜

【評】「母の目細きなり」ですと、もともと目の細いお母さんだということになってしまいますが、きっと目を細めたと言いたいのでしょうね。「目を細め母紅梅を愛でにけり」。

△春帽子踏切で振る小さき手     多喜

【評】「小さき手」とはだれの手なのでしょう。「踏切で手をふる母の春帽子」など。

○内股に脱ぎたるシュ-ズ雛の客     音羽

【評】なかなか面白い句ですね。ちょっと語順を入れ替えて調べをよくします。「内股にシューズ脱ぎたり雛の客」。

◎翔つ鳩の首の虹色涅槃西風     音羽

【評】鳩の虹色の首が涅槃西風とよく合っているように感じます。これは私の好みの問題でもあるのですが、漢字をあまり連ねたくないので、「翔つ鳩の首の虹いろ涅槃西風」とするのも一法かと思います。

△川島に白波寄する兼好忌     徒歩

【評】淡々とした風景描写で、古ぼけた襖絵のような印象を受けました。この「川島」と「白波」には兼好に因んだいわれがあるのかもしれませんが、解りませんでした。この季語にはもっと現代的な風景をもってきたほうが面白くなりそうです。

○どこからも山頭見ゆる島四国     徒歩

【評】季語は「島四国」で春。四国八十八箇所を巡ることとか。この季語を使った句は初めて見ました。徒歩さんはよく勉強していますね。ことによると「山頭」は種田山頭火へのオマージュかなとも思ったのですが、何の山かちょっと気になりました。

○御手玉の影動きをり春障子     妙好

【評】春らしさが伝わってくる句です。「影動きをり」が少々もっさりした感じですので、たとえば「お手玉の影よく弾む春障子」とするのも手でしょう。これは好みの問題ですが、「御手玉」の「御」を平仮名にしたほうが軽みが出るように思います。

○なはとびの園児一列影法師     妙好

【評】季語は「なはとび」で冬。下五の「影法師」が取って付けたようですので、もう少し一句の流れに工夫がほしいところです。「縄跳びの園児の影も一列に」など。「なはとび」は漢字にしたほうが読みやすいように思います。

○女子多き水産高やミモザ咲く     マユミ

【評】「女子多き」がやや曖昧で、説明的ではありますが、水産高校の女子生徒とミモザの取り合わせはぴったり。とりあえずこの形で残しておきましょう。

◎おとうとのギター聞こゆる梅月夜     マユミ

【評】季語がしぶいですね。シックな弟さんが想像されます。佳い句です。

○庭の雀飽かず眺むる日向ぼこ     万亀子

【評】読み手の心を穏やかにしてくれる句です。上五の字余りが惜しい。「日向ぼこ庭に雀を遊ばせて」など、語順を入れ替えるとすっきりするように思います。

○朝採りし野菜のジュース春きざす     万亀子

【評】春の訪れを思わせる明るい句ですね。俳句は動詞を減らすと引き締まりますので、上五だけ手を入れます。「朝採りの野菜のジュース春きざす」。

◎抜きたての根に地のぬくみ菠薐草     あみか

【評】動詞をさけ、名詞だけで仕立てたため、引き締まった句になりました。結構です。

△~○マネキンの肩すべらかに春ショール     あみか

【評】「肩すべらかに」ですと、はだかのマネキンのつるつるした肩が見えてきます。とすると、春ショールとの関係がわからなくなります。「マネキンの肩に回せる春ショール」でしょうか。

△沈丁花ぽっちり開き深呼吸     白き花

【評】この句の形ですと、沈丁花が深呼吸をしたように読めます。実際には作者が深呼吸したのですね。「ぽつちりと咲く沈丁に深呼吸」。ただし「ぽつちり」という形容が相応しいかどうかは一考を要するかも。なお、俳句では「っ」は大きく表記します。

△おこしもん郷土の料理娘から     白き花

【評】桃の節句の菓子である「おこしもん」が季語ですね。これが愛知の郷土料理であることは自明ですから、「郷土の料理」は句から省けます。「娘から」というのは、娘さんから送られてきたという意味でしょうか。「まだ温し娘手製のおこしもん」など。

△山路きて紅き冬芽にルーペ寄す     維和子

【評】「山路きて」と「紅き冬芽」と「ルーぺ寄す」の3つの事柄が並べられ、どこに感動のポイントがあるのか曖昧です。「ルーペ寄す」は要りませんので、ルーペで拡大したことから知り得た冬芽のありさまを具体的に描写しましょう。また、何の冬芽なのか植物名もほしいところです。

△~○鶏の声を聞きつつ楮蒸す     維和子

【評】「声」といえば聞いているのは自明ですので、「聞きつつ」は不要です。「朝告ぐる鶏のこゑ楮蒸す」などもう一工夫してください。

△古民家の白き肌色享保雛     麒麟児

【評】これでは「白き肌色」が古民家のことのようです。色白なのは享保雛ですね。「古民家に肌ほの白き享保雛」。

△春兆す迎賓館に宴鍋     麒麟児

【評】「春兆す」には朝もしくは昼間のイメージがありますので、夜を連想させる宴の鍋とはミスマッチのような気がします。「春宵や迎賓館の宴鍋」くらいでどうでしょう。

△~○真つ白なパン皿笑ふ梅の花     永河

【評】「ヤマザキ春のパンまつり」の今年の景品は「白いスマイルディッシュ」ですので、それを句にされたのでしょうね。ただし「パン皿笑ふ」では意味が通じないのではと危ぶみます。「景品は真白きディッシュ梅日和」くらいが無難かなと思います。

△耕作の人絶へ水辺の黄水仙        永河

【評】まず「人絶へ」ではなく「人絶え」です。また、中七が字余りですね。「耕作」と「水辺」の関連付けが難しいので「水辺」をカットし、「耕せる人なき里や黄水仙」としてみました。

○踏ん張りて歩み始む児春たてり     織美

【評】「始む」は「児」を修飾しますので、連体形の「始むる」が正しい形です。しかしそれでは中七が字余りになりますね。そこでこんなふうにしてみました。「踏ん張つて歩み出す児や春立てり」。

○コロナ禍に看取れぬ母や春時雨     織美

【評】これでも十分に句意は伝わりますが、「コロナ禍」を使うと余韻のない句になりがちです。「コロナ禍」は前書にしてしまい、たとえば「病室の母は一人よ春時雨」など工夫してみてはいかがでしょう。

次回は3月23日(火)の掲載となります。前日(22日)午後6時までにご投句いただければ幸いです。力作をお待ちしています。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。

 


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