前回の続きです。
脳性まひの女性についたサービススタッフの方は、一生懸命、なんとかすべてのことを障害のある方に体験してもらおうとしていました。
でも、心配だったのだと思います。「これをお客様のところにもっていってください」と言った後も、ハラハラドキドキした顔で障害のある方の背中を見守っておられました。
そのとき、「なんとか体験してほしい」と思ってくれた気持ちが、想像を越える出来事を生みました。
脳性まひで、体幹も少し安定しない。手足も麻痺でうまく動かない彼女に、
「まさかお料理の乗ったお皿を持たせるとは!」
本当にビックリしました。私たちは、福祉の仕事を長くしているので、パっと見てだいたいの障害を把握して「こんなもんかな」と判断してしまいがちです。そして、本人が失敗して傷ついてしまうことを回避しようとして、あまりチャレンジさせない傾向があります。つまり、私たち福祉職の人間は、慣れゆえに「限界を勝手に見極めてしまう。」ことが多い。
サービススタッフの方が障害を知らないがゆえに、「何とか体験してもらいたい」とお皿を運ばせてくれたことで、まさに、化学反応が起こりました。
脳性まひという障害は、脳からの指令が上手に手足や体に届かず、思うように動かしにくい障害です。その障害がある女性が、指先の先の先まで神経を行きとかせようとした。両手でしっかりお皿をもって、数歩あるき、お客様の前にお皿を「スッと」置いた。「トン」ではなく「スッと」置いた。彼女にとってとても力加減が難しい作業。全身全霊を指先に集中させているように感じた。その姿に感動しました。自分の意思では思い通りに動かない体と付き合っている彼女にとって、それをすることがどれほどのことか。その指先に目を奪われました。
カメラを担当していてくれた友人は、最後の感想で「みなさんのお水や飲み物を注ぐ手がとてもキレイで、それは、最初にプロの方の動きを見ているからだと思った。」と言われました。
不安や緊張が高くなると人とうまく喋れない障害のある方は、最初の自己紹介は緊張のあまり泣いてしまい何も言えなくなってしまった。サービスが始まっても、動き出せなかった。サービススタッフの方は「やってくださいと言ってもやってくれなくて、もう無理かな。できないかな。」と思ったと言われていた。でも、「一緒に行ってみよう」と思って一緒にお客様のところまで行き、コップを渡して、水を渡して、「入れてください」と言ったら入れてくれて、それからいろいろやってくれるようになった、という。
最初は泣いていた彼女が、最後は笑顔だった。感想も自分の言葉で話すことができた。
私が「本物」にこだわった理由はここにあったのだと気がつきました。
知的障害のある人は「言葉だけ」でのコミュニケーションでは、伝わらないことが多いです。
イメージする力の障害も関係しているだろうし、もっている語彙の違いもあると思います。
だから、私は「体感」して「体得」してもらいたい。と思っていたのです。
体で感じて、体で会得してもらうには、「本物」が必要です。
参加者はみんなそれを感じてくれたのだと思いました。