いよいよ今年も押し詰まってきました。新型コロナウイルス禍に翻弄された一年でしたが、皆さんの健吟にわたしも励まされました。
今年最後の投句作品となりますが、けっこう力作が多かったように思います。
△初雪や雑木林を白に染め 蓉子
【評】雪が降れば白く染まるのは当たり前です。意外性がないと詩にはなりません。「初雪や雑木林に見知らぬ子」など。
〇夫癒えて笑顔のもどり冬の朝 蓉子
【評】素直な句です。動詞を1つにするとさらに引き締まります。「病癒え笑顔の夫や冬の朝」など。
△~〇屋根叩く霰に燥ぐ孫の声 美春
【評】「マゴマゴ俳句」はきらわれます(句が甘くなるので)。できるだけ「孫」は使わず、「子」や「児」に言い換えましょう。「燥ぐ」ももっと具体的に描写したいところです。別の句意になってしまいますが「天井を睨む子霰降る音に」などとすればさらに情景がはっきり見えてくるはずです。
△牡丹雪ふはりと積もる老樹かな 美春
【評】この情景のどこに作者は感動しているのでしょう。そこがもう少し伝わるとさらによい句になりそうです。「牡丹雪積もりて老樹艶めけり」など。
〇年の夜や厨に跳ぬる車海老 柚子
【評】なかなか面白い句材ですね。これでもOKですが、もう少し車海老に接近して詠むならば、「年の夜の笊に跳ねをり車海老」などとする手もあります。
△~〇数え(へ)日やひとりで向かふ手術室 柚子
【評】季語がよくありません。緊張して手術室に向かっているとき、「あと三、四日で今年も終わりだなあ」などと感慨にふけっていられるでしょうか。たとえば「外は雪独りで向かふ手術室」では悲壮感が出過ぎでしょうか。
◎初雪や両手につつむ抹茶碗 妙好
【評】ふと京都の無鄰菴でお茶を頂いたときのことを思い出しました。日本情緒たっぷりです。このような句を読むとJR東海ではありませんが「そうだ京都、行こう」という気になりますね。
◎モネ色の夕空映す鴨の陣 妙好
【評】きれいな句です。「鴨の陣」は純日本風の季語ですが、「モネ色」を持ってきたことで別種の味わいが生まれました。そういえばモネも日本の浮世絵に影響を受けて独自の画風を発展させたのでしたね。
◎寒き夜や夫の買ひくる鍋の肉 織美
【評】生活感豊かな句です。季語もぴったり。夫婦の相労わる気持ちも伝わってきて、しみじみと読みました。
◎膝に来し児と見る絵本外は雪 織美
【評】この句も文句ありません。一読、情景が見えてきますし、何より読者の心を温かくしてくれるところがよいと思います。
◎白鳥の一声湖の靄動く 音羽
【評】表現が引き締まっており、簡明にして雄勁。俳句の目指すべき境地の一つに到達した作品だと思います。
◎セ-タ-を抜け出で吾子は少女めく 音羽
【評】これは上の句とはまた違い、まさに現代風の俳句。「吾子」はまだ幼さを残した子供なのでしょう。しかしセーターを着たとたん、少し大人びた少女に変貌したのですね。「抜け出で」と表現したところが秀逸です。余談ですが、「セーターにもぐり出られぬかもしれぬ 池田澄子」というわたしのお気に入りの句があります。セーターのなかは小さなタイムトンネルかもしれませんね。
△~〇ラウンジで親の死語る黒ショール マユミ
【評】「親の死語る」では生々しくて、ちょっと気持ちが引いてしまいます。「ラウンジで亡き父のこと黒ショール」など、もう少し表現を洗練させてほしい気がしました。
△落ち着かぬ婆と腕組み冬の虹 マユミ
【評】なぜ「落ち着かぬ」なのでしょう。コロナで外出を怖がっているお婆さんを無理やり連れ出したのでしょうか。もう少し一句の背景がわかるといいですね。
〇鍋磨き力が入る年の暮 白き花
【評】年の暮の感じが出ていてなかなかよい句です。ただ、「力が入る」をもう少し具体化するとさらに景がはっきり見えてくるように思います。たとえば「年の暮肘とんがらせ鍋磨く」など。
〇いち早く歌留多で過ごす巣篭もり日 白き花
【評】よくわかります。ただし、やや説明的な感じを受けます。もう少しだけ表現をブラシュアップするなら「巣籠の朝な夕なに歌留多取り」でしょうか。
△~〇口悪き婆の売り声果弘法 徒歩
【評】果弘法の露店商にはこんなお婆さんもいそうですね。「口悪き」とは具体的にどんなことを言ったのだろう。「売り声」とは何を売る声なのだろう。こんなことを考えてしまい、読後感がもやもやとします。読み手にそんなことを考えさせない作り方もあるように思います。「歳晩や露店の婆の高笑ひ」などご再考下さい。
△~〇風呂吹や弘法市を逃れ来て 徒歩
【評】「逃れる」というのは、不本意に連れてこられた場所からエスケープすることですが、弘法市はご自身の自由意志で行かれたのでしょうから、ちょっと違うかなと感じました。「風呂吹や弘法市を一巡し」など、もうちょっと的確な表現が見つかるといいですね。
△~〇そっ(つ)くりな親子の浸る柚子湯かな 万亀子
【評】ほほえましい情景なのですが、「そつくりな親子」が曖昧です。親子ですから似ているのは当然ですが、年齢差は20~30歳はあるはずですから、顔が「そつくり」というのは無理があります。もう少しきめの細かい表現がほしいところです。
△くるくると仲睦まじや浮寝鳥 万亀子
【評】まず「くるくると」がどんな行動を示しているのか曖昧です。また「仲睦まじ」と受け止めたのは作者の主観ですから、仲睦まじく見えた、鳥の動作そのものを写生して下さい。なお「浮寝鳥」というのは水に浮かんで眠っている鳥のことですから、そんなに動いたりはしません。
〇念入りに仏具磨きて年用意 多喜
【評】句形もよく、きちんとできている句です。いかにも年末らしい情景ですね。ただし、年用意として仏具を磨くという句は数多くあります。ほぼパターン化していますので、月並句に分類されてしまいます。
△~〇餅搗くやその日のうちの発送便 多喜
【評】搗き立ての餅を、その日のうちに誰かに郵送したのですね。いったい誰に送ったのでしょう。そのへんが描けると、さらに思いのこもった句になるように感じます。「今日中に子に送らんと餅つけり」など。
◎鳶の笛玲瓏として山眠る 永河
【評】格調の高い、古典美を備えた作風で、音読すると気宇壮大になります。たいへん結構と思います。
〇ぴちゆぱちゆと夢を語らふ初雀 永河
【評】「ぴちゆぱちゆと」を面白く思いました。一瞬わたしの頭のなかで「マチュピチュ」と交錯しました。ちなみにわたしの勤務先大学は山の上にありますので、「日本のマチュピチュ」と呼ばれています。あとは「夢を語らふ」がどうかですね。何かの挨拶句であれば、なかなか味がありますが、「何語らふや」くらいのほうが穏当な気もしました。
次回は1月19日(火)の掲載となります。前日18日(月)の午後6時までにご投句頂けると幸いです。
では皆様よいお年をお迎え下さい。 河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。