「カナリア俳壇」41

新型コロナウイルスの猛威が衰えませんね。われわれは長期戦を覚悟しなくてはならないようです。正直なところ、わたしは結構「コロナ疲れ」の状態ですが、皆さんの俳句への熱意に励まされています。早速ご投句順に見てゆきたいと思います。

〇三島忌や小石にあたる鍬の音     ひろ

【評】おもしろい句ですが、大きな季語から始まって「鍬の音」という微細な句材でまとめると尻すぼみの感じがします。「小から大へ」と作った方が句の安定が増すように思います。「鍬の刃に当たる小石や憂国忌」など。

〇冬ぬくしミニカー握り児の眠り     ひろ

【評】この句も季語は下五に置いた方が安定します。「ミニカーを握り眠る児冬ぬくし」。

△白壁にしだれ紅葉の赤が映え     蓉子

【評】「白」と「赤」の対比があからさまで、ちょっと作為が見えすぎですね。俳句とはそもそも江戸時代に流行った連句の発句が独立したものですから、終止形でどっしりと作らなくてはなりません。ちなみに連用形で止めるのは連句における平句の特徴で、これが後の川柳になるわけです。とりあえず「白壁にしだれ紅葉の赤が映ゆ」としておきます。

△病む夫に姪の優しさ冬ぬくし     蓉子

【評】俳句では「優しさ」といった抽象的なことを言ってはいけません。どんなところからその「優しさ」を感じ取ったのですか。優しいと感じた姪の動作を具体的に描写するのが俳句です。「病む夫を笑はす姪や冬ぬくし」など。

〇空気まで赤く染めたる紅葉狩り     白き花

【評】「空気を赤く染める」という表現は、吟行に行くと割とちょくちょく出てきますので、オリジナリティーの点でやや弱いのですが、形としてはしっかりできています。俳句では極力送り仮名は省くことになっていますので(歳時記で確認して下さい)、「紅葉狩り」の「り」は取りましょう。

△新月は心新たな我なりし     白き花

【評】「新月」は月が変わることでなく、月の種類ですので、なにか変です。「新月の日」は心新た、なら分かるのですが。それと「我なりし」では過去形になってしまいますが、俳句は「現在只今」の文芸です。過去の出来事も現在のこととして詠むのが基本です。

△~〇吟醸酒湯上がりに開け冷やとせり     美春

【評】下五は「ひやっとした」という意味ですね。それならば「湯上りに吟醸酒開け冷え冷えと」のほうが句意がとりやすいと思います。季語は「冷ゆ」。

〇冬鳥は庭の餌台で尾を振れり     美春

【評】「冬鳥は」の「は」があると散文的になります。上五を「冬の鳥」としましょう。

〇駄菓子屋を閉ぢて媼の日向ぼこ     音羽

【評】「閉ぢて」を「今日は早々と店じまいして」という意味に解しました。郷愁をさそう景です。もし廃業したということなら「駄菓子屋を畳みし嫗日向ぼこ」でしょうか。

〇大声で話す下校子顎マスク     音羽

【評】新型コロナと結び付けなくても十分に鑑賞できる句です。「顎マスク」がいいですね。「大声で話す」にもう一工夫あると秀句になりそうです。これは一例ですが「声色をつかふ下校子顎マスク」など。

△憂国忌獏を食ひたる夢を見し     徒歩

【評】「獏」には馴染みがないため、ぴんときませんでした。夢を食う「獏」だと空想上の動物なので、ますます映像が浮かびません。これが例えば「猿」ならば何かが通じる気がするのですが・・・。

〇インバネス動かぬ鯉をあかず見て     徒歩

【評】不思議な感覚の句ですね。これは好みの問題ですが、下五に季語を置く方が落ち着く気がします。例えば「動かざる鯉見て飽かずインバネス」。

△~〇巫女舞の稽古社務所の夕紅葉     妙好

【評】「社務所」がちょっと邪魔をしているように感じました。「巫女舞の稽古つづけり夕紅葉」など、もう一工夫してみてください。

△薄衣まとひ綿虫掌の中に     妙好

【評】美しい句ですが、観念で作った感がなきにしもあらずです。「薄衣まとひ」と比喩に逃げず、綿虫の形状を穴があくほど見つめ、独自の表現を見付けられたら素晴らしい作品になるでしょう。

△あれもこれも嫌嫌と泣くちやんちやんこ     マユミ

【評】上五の字余りは避けましょう。また句全体が漠然としています。例えば「嫌々と泣きて子の脱ぐちやんちやんこ」なら情景が見えてきます。

△銀杏羽の美しき鴛鴦峡の晴     マユミ

【評】銀杏羽といえばオシドリのことに決まっていますし、それが美しいのも自明です。「銀杏羽」を季語「鴛鴦」の傍題として、「銀杏羽のどれも輝き峡の晴」とするのも一法でしょうか。

◎社家並ぶ裏参道や冬ぬくし     織美

【評】「裏参道」がいいですね。社家の静かな佇まいが見えてきます。季語も結構でしょう。

〇寒き夜やホットケーキの小豆煮る     織美

【評】いい雰囲気の句ですね。中七下五の情景はあまり寒さを感じさせませんので、上五の「寒き」と多少ミスマッチかもしれません。「冬の暮ホットケーキの小豆煮る」とするのも手かなと思いました。

△アパートの外階段や寒鴉      あみか

【評】句自体はしっかりと出来ています。しかしこの句は「アパートの外階段」に感動している作りになっていますが(「や」は感動の所在を示す切れ字ですので)、それは別段珍しくないように思います。また、そのようなアパートの前にはゴミ袋が置いてあるので鴉もよく集まります。というわけで、全体に日常感覚にとどまっているように感じました。

△酒場裏銀杏落葉の吹かれ寄る     あみか

【評】うらぶれた酒場と落葉の吹き溜まりでは予定調和と言いますか、月並みな光景です。また漢字を7つも連ねては読みづらくていけません。漢字を連ねるなら4つまで、と決めましょう(例外はありますが)。「酒場裏明るくなりぬ銀杏枯れ」「バーテンダー銀杏落葉を塵取りへ」などもう少し工夫できそうです。

〇声揃え「六根清浄」眠る山     万亀子

【評】ネットで調べると、「六根清浄」とは修験者が山を登るときの掛け声なのですね。歴史的仮名遣いなら「声揃へ」ですね。中七で切れますので、下五は「山眠る」としたほうが調べがいいように思います。あるいは「冬の山」でも結構です。

△葉叢より現れ来たる柚子は黄に     万亀子

【評】中七・下五の調べがよくありません。「葉叢より溢るるやうに黄金柚子」でいかがでしょう。「黄金(こがね)柚子」はわたしの造語ですが、ちょっと冒険してみました。

△連なつて踏む膝丈の朴落葉      鶴代

【評】「膝丈の朴落葉」がわかりません。膝丈とは立っている物に使いますが(膝丈の地蔵など)、朴落葉は地に寝ているのではないでしょうか。とりあえず「大足と小足踏みゆく朴落葉」としておきました。

△正門は御假屋門よ銀杏散る     鶴代

【評】「出水小学校」の前書があります。句の形はきちんとできています。しかし、出水小学校の門が御仮屋門であることは地元民には自明ですね。旅行者の目で作るのではなく、地元の人をもはっとさせる発見がほしいと思います。

〇冬耕の土溌剌と息をする       永河

【評】童心で作った句ですね。「息をする」と動詞の終止形にしますと、一般的事実の叙述になってしまいます。完了の助動詞「り」を使うと詠嘆が込められ、句にも勢いが出るように思います。「冬耕の土溌剌と息をせり」または「冬耕の土溌剌と息づけり」。

〇大杉の洞は冬への扉かな      永河

【評】おとぎ話のように楽しい句です。ただ「洞」は穴であって「扉」ではありませんね(扉は口をふさぐものですので)。「扉」の代わりに「出口」にすれば字数は合いますが意味がとれませんし、「入口」にすると下五が字余り。とりあえず「大杉の洞の向うは冬の国」としてみました。

次回は12月29日(火)の掲載となります。前日の午後6時までにご投句頂けると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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